目白からの便り

あいまいさの価値 コミュニケーションの深い理解 その1/3

副題:大切な価値なのか、排除すべき弊害なのか

昨年末、何気なくつけていたテレビで流れていたドキュメンタリー番組で記憶に残る場面があった。その映像と内容が、今でも長くその余韻が残っている。それは、日本に来ている留学生の言葉であった。「ものごとを明確にするとが、はたして正しいことなのか、わからなくなり、日本のあいまいな文化の価値を感じるようになった」という言葉であった。この曖昧なものが大切な価値あるのではという若い留学生の問いかけが、その後、長く自分の心をとらえている。

私達が直面している社会の出来事や、私自身の考え方や人に接するときの姿勢にとっても大切なメッセージなのかとも感じたからである。社会がグローバルに繋がるにつれて、国を超えた交流の密度が濃くなってくる。言葉の理解の相違や誤解に基づく深刻な衝突や対立などの葛藤(コンフリクト)の増加は、私自身の身の回りにも起こったし、広く社会でも日常化し、そして国際的には引き返せないほどの深刻な事態へと波及している。

人事の視点では、この日本の「あいまいさ」が、集団的な意思決定の質や速度を落としてしまうのではないかという危機感をもち論調も一般的には、「あいまいさ」が日本や日本人のコミュニティを分かりづらくさせている元凶のような評価がされている。主語を明らかにし、目的と結論、そのプロセスを明確化に言語化し、定義づけすることに不得手な民族であり、グローバルにコミュニケーションを取っていくためには、またグローバルに共同作業をしていくためには、そうした「あいまい」な文化的価値観から脱却すべきであるという論調に多くの人は反論できない。企業活動における組織人事でも、同じように仕事の範囲を明確に定めるといった業務分掌規定や、組織業務の領域と責任権限を規定化するとともに、個々の働き手の役割や行動期待も明確にすべきであるという動きが主流である。

反面、過去築き上げ、慣れ親しんできた日本的経営は、職務の範囲を限定せず、職種間の往来を容易にすることを人的資源管理の持ち味としてきた。技術・事務部門も生産部門も等しく同じ給与体系や人事システムを適用し、相互の人事異動も可能にならしめてきた。マルチタスクや総合的人材育成を軸としたジェネラリストの養成を第一義としての人事施策を根幹においてきた。人材育成もこの「あいまいさ」が根底にあったともいえる。固定化しない柔軟さの最大化を組織管理の強みとしてきた。

若い留学生の問いかけは、このような白黒をはっきりさせない「あいまい」なところにとてつもない大切な価値が秘められているのではないかという問いかけなのであろう。この中庸といった概念は、日本の組織や社会において、短期的だけでなく長期的な視点で見た時に大切に温存すべき価値があるのか、排除すべき弊害なのか。皆さんはどう思うのか、私は、人事屋として深く考えてみたくなったのである。その積極的な価値は多様性の受容であり、消極的な価値は、時間をかけて最適解を探し続ける慎重性なのかもしれない。(次週に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2024年1月19日  竹内上人

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