目白からの便り

冠位十二階で示された人事評価上の意味

早朝の松本は快晴で、ひんやりした冷気に包まれ、北アルプスの山々も透き通って、山に登るにはよい条件である。日中は気温が上がるであろうが、この時間の冷気はすがすがしい。

賃金体系についていろいろ調べをしていく中で改めて気づいたことがあった。「官位十二階」という言葉を知っている方も多いであろう。日本で初めての冠位・位階であり、603年に制定され、50年ほど使用された。その序列が意味深い、上から「徳・仁・礼・信・義・智」の序列で、最高位は「徳」、最低位は「智」となる。これをそれぞれ、大と小に二分割して、大徳・小徳・大仁・小仁・大礼・小礼・大信・小信・大義・小義・大智・小智の12階層の冠位が構成される。

「智」とは賢さや知恵の意。「義」とは社会的・人道的な道理、「信」とは信頼できる人や行為、「礼」とは形式ではなく敬う心からくる社会秩序を保つ礼儀の意、「仁」とは、他に対するいたわりの意、そして最高位の「徳」とは、これらのすべてを包含し精神の修養をもって身に得た品性となる。それぞれの並ぶ順序も興味深いが、最上位が「徳」で、最低位が「智」という位置づけも、人を評価する上での価値観としては感慨深いものがある。

おそらく当時の序列は、その人の立ち振る舞いや所作によらず、身分や家柄によって付与されたのであろうが、人材評価のルールとしての序列体系をこうした概念で構成したこと自体が興味深いのである。遠い昔のことであり、実態の運用は推測でしかないが、ルールは事実である。そこに人間に対する価値観や願望・希望の根底が含まれている。

現在、日本企業は人口構造の大きな転換点を過ぎつつある。生産年齢構成の変化に直面し人事制度の仕組みの見直しを迫られている。次世代の経営の担い手となる若手のモチベーションを保ちつつも、経験豊富な中高年齢層の積極的活用をどう調和させていくのか、ライフキャリアにおいて、実質的にはさまざまな影響を受けやすい女性就労者への多様且つ柔軟な雇用形態や就労システムをどのように実現させるのか、国際競争力を量と質の面で強化する為に外国籍人材の積極的雇用など、人事制度を抜本的に見直すためのさまざまな取り組みが進んでいる。「ジョブ型雇用」や「同一労働同一賃金」などの強いメッセージ性のある言葉の重圧が経営者や人事担当者を悩ませているのであろうが、いにしえに精魂込めて定められた「冠位12階」の序列の意味合いにも心を配り、大切な何かに注意を払うことも忘れないでいたいと思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年7月30日  竹内上人

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