目白からの便り

日本的経営のエッセンス

今年の4月から大学院に進学する計画で2年前程から準備を進めてきた。順調に修士課程が修了しても60歳の還暦の年齢となる。学び直すことについて、所属するロータリークラブの先輩や、今までお世話になった先生方、家族の助言を受け、昨年の秋に入試を受けた。大学院は、現在非常勤講師で経営学総論の講座を担当し地理的な馴染みもある学習院大学の経営学研究科に決めた。修士論文の研究テーマの領域も狙いをつけ整理してきた。現在の仕事を継続しながらの学習であり、時間のやりくりに工夫し、会社の仲間にも負担を強いてしまい、悩みながらの2年間になるのだと思う。

学部生時代から労使関係を学び、企業に入社後は人事畑を歩み、起業したのちも人事に関連する事業を主戦場として40年以上が過ぎている。卒業研究は「八幡製鉄所の賃金体系史」だった。日本の近代産業の先導役であった八幡製鉄所の賃金に関する労使のやり取りを通じて日本的経営の根底に流れる組織における「公平感 (fairness)」について探りたいと考えた。経営と働き手が共有する日本特有の公平感を賃金に関わるやり取りを通じて言語化し、経営のエッセンスを抽出したいと試みたが、深い考察に至らず心残りの残影が残る。大学院でもそのぼんやりしている日本的経営のエッセンスの解読に再びチャレンジしたい。実務を知らない二十歳前後に感じた風景と、人事の実務を積み重ねてきた経験が、その残影から発せられる繊細なメッセージを読み解く糧となって自分を励ましてくれればと願う。

先週の週末に、所属する国際産業関係研究所の月次研究会に出席した。例年、その所在する同志社大学(京都市)で開催されるが、今年はオンラインで行われている。付随した寺社巡りはかなわなくなったが、時間的、地理的にも出席が容易になったのは、学習や働き方の大きな環境変化の恩恵であろう。研究会の議題は、「働き方改革実現に向けて」と題して寺井基博先生(同志社大学)の発題で行われた。優れた課題提起と論説で思考が活性化する。報酬としての「賃金」は、提供する「仕事」の質と量の取引で成立すると考えたいところだが、働き手の仕事に対する意欲や達成感、承認欲求はそれだけでは関係性を証明することができない。何か他に働き手を駆り立てるエッセンスがあるのだと議論が進む。

日本に限って言えば、急激に進む生産年齢人口の減少と社会保障費の重層化、社会と雇用の多国籍化、雇用の流動化と形態の多様化に今後向き合っていく。経営者にとっても働き手にとっても、仕事の質を高めていきたいと切望する願いは共通するはずである。共通する願いがあれば必ず相互の信頼関係は熟成され、新しい一致した試みが可能になる。4月から再び学び直す過程の中で、実務経験を踏まえて見えてくるこれからの日本的経営のエッセンスと人事の視点で格闘したい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年1月29日  竹内上人

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