目白からの便り

志津川オリエント工業株式会社 未来に向けて時を刻む

私の手元に、古びた腕時計がある。オリエント時計のオリエントスター。機械式の腕時計で、裏側がスケルトンになっており、中の精密な機構の動きを覗き見ることができる。ゼンマイの鼓動のような律動を眺めていると、時を刻むという行為が、単なる計測ではなく、確かな生命の営みのように感じられる。私は前職の関係から、おそらく一般の人より多くの腕時計を所有しているが、この一本は特に私の記憶の深い層と結びついている。当時、私はオリエント時計と同じグループに属する企業で働いていた。30年以上も前になるが、人事の組織か昇格の打ち合わせの後、若い時からお世話になったこの会社のM社長から薦められて買い求めた腕時計である。

スケルトンで歯車などの部品がカチカチ動くこのオリエントの腕時計を見ると、この時期になると必ず思い返す15年前の東日本大震災の記憶が重なる。ちょうど3月末に行われる方針大会の資料を作成していた時、長野県の事業所でも大きな揺れを感じた。あの瞬間の静寂と混乱、空気の張りつめた感覚は、今でも鮮明に思い出すことができる。それを境に、社内は一気に危機管理モードへと切り替わり、日常の延長線上にあったはずの仕事が、突然まったく異なる意味を帯び始めた。

グループの事業所や関係する工場の被害の状況が社内にもたらされる。そのひとつが宮城県南三陸町にあったオリエント時計の協力工場が被害を受けたという知らせであった。この地域は津波の直撃を受けた場所である。2011年3月11日、機械式腕時計のムーブメント部品工場であった志津川オリエント工業株式会社は、津波により全壊した。知らせを社内で聞いた時、働く方々やその家族は無事だったのか、言葉にならない不安が押し寄せた。その時の風景、社内のざわめき、誰もが抱えていた沈黙の重さは、今も記憶の底に沈殿している。

しかし、驚くことにこの工場は震災からわずか2か月後の5月に操業を再開した。瓦礫の中から立ち上がり、短期間で日常を取り戻す状態にまで復旧したのである。社員一人ひとりが総力を挙げて現場を立て直したのだ。どうしようもない絶望の中から、未来に向けて踏み出す第一歩のエネルギーは、いったいどこから湧いてくるのだろうか。混沌から秩序へと復元するその力は、単なる復旧作業ではなく、人間の尊厳と誇りの表れであり、かけがえのない資源であり、まさしく企業ブランドそのものなのだろう。

志津川オリエント工業株式会社の現在のホームページ*を訪ねてみると、そこには誇らしく「未来に向かって時を刻む」と記されている。その言葉は、単なるキャッチコピーではなく、あの日から歩み続けてきた人々の覚悟と希望を象徴しているように思える。

同じように、東日本大震災発生時に宮城県南三陸町職員であった遠藤未希さんのことも、深く記憶に刻まれている。遠藤さんは震災発生時、持ち場である南三陸町防災対策庁舎で、防災無線を通じて「高台に避難してください」と呼びかけ続け、多くの人命を救った。そして、津波に襲われる最後の瞬間まで職務を全うし、津波にのみこまれて殉職した。彼女の行動は、職務という枠を超え、人としての責任と勇気がどれほど強い力を持つのかを私たちに示している。

人は労働の対価として報酬を得るために自らの労働力を提供する。しかし、人間の心理として、報酬だけで働くわけではないということを、私たちは日常の中で意識しておく必要がある。歴史を振り返れば、恐怖と混沌のただ中で職責を果たし続けた人々が数多く存在した。過酷な環境にあって危機に直面しながらも、高い職業意識を保ち、誠実に職務に向き合う姿勢は、どのように育まれるのだろうか。平和と命の尊さを思うと同時に、自らの仕事に対する倫理観を見つめ直す一週間になる。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

*志津川オリエント工業株式会社の現在のホームページ
https://shizugawa-orient.jimdofree.com/

2026年3月13日 

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