目白からの便り

リーダーシップの在り方 その2  経験を献身的に他者へ伝えること

個人や組織の知的財産やノウハウ、熟練や匠の技などといった技能伝承にも通じるような見えざる資産の権利保護について効力について考えることがある。特許などの法的に守られた知的財産保護に関しては、その開発者にそこに至る努力に敬意を払い、次なる新たな科学的、社会的な価値を創出する意欲を減退させないという励ましの枠組みでもあり、その外的名誉や評価、それにかかわる経済的な利権を享受し、次への開発意欲の再生産の連鎖を促すことによって、イノベーションが誘発され、継続的に社会的に利便性や価値あるものが提供されることになる。膨大な開発投資をした企業にとっても、その労に報いるための正当な報酬や利権を社会システムの中で主張することは正当な仕組みであろう。

私が社会人になって間もないころ、知的財産を統括する責任者の方と組織変更の打ち合わせをしている会話の中で印象に残った言葉がある。その言葉は35年たった今でもその語感が脳裏に深く沈殿している。その知財部門の責任者の方は、営利組織が協同的ではなく、防御的に知的財産を囲いこむことは、イノベーションの連鎖の機会を広く社会に喚起することを妨げているので、行き過ぎた知的財産の保護的な仕組みは避けるべきだと20歳代の若い人事マンの私に語り掛けた。純粋な技術者としての創造的な知的好奇心を社会システムで囲い込まれることの窮屈さを感じてのことなのであろう。

法的な資産には至らないが、職場や企業単位の小さなコミュニティーの中でも技能や熟練、ノウハウや経験値といった個人が仕事を通じて身に着けた貴重な経験値をできる限り組織共有の資産にしたいという思いは、多くの経営者や組織リーダーの方にとっての願望であろう。彼らは共同体としての収益性や効率性、作業安全性の基盤づくりの最大化の責務を担っているからである。個々が有する知識やノウハウを他者に惜しげもなく伝えることをシステムで誘発していくべきか、人間がもつ相互依存的な共同体という生存本能によって喚起させるかは極めて難しい選択である。それまでの組織をけん引してきたリーダーのもつ雰囲気にも大きく依存する。

退職をする、人事ローテーションなどで異動をする、後継者育成のために業務移管をするなど,様々な形態で職場組織の中で経験や技能、ノウハウの移管作業が行われる。スムーズに行われる場合もあるし、防御的感情が支配してしまって、前任者が自身の経験を囲い込んでしまう場合もある。業務引き継ぎの場面で行わず日常的に仕事の標準化を行い、「業務処理基準書」や「作業手順書」などに落とし込むようにすることにより、経験の送り手と受け手の心理的ハードルは下がる。マネジメントはこの関係性をもたらす職場環境づくりに日頃から留意をすべきだと思う。

環境局面に応じて柔軟的に対応できる相互協同的な組織の雰囲気を醸し出すためのリーダーシップは、リーダーとしての取るべき基本的な資質になるのであろう。リーダーは自らが惜しみなく自己の経験を職場の仲間に伝え続ける献身者であり続けなければならない。自分が取得した経験をろ過し、良質な要素を抽出し、他者に惜しげもなく注ぎ込むことによって、職場の空気感は一変する。今日もひとつだけでもいい、さり気なく自分の良質な経験を受け手の将来を期待して伝達してみたい。(次週に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年5月19日  竹内上人

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