目白からの便り

武相荘の箸置き プリンシプル(Principle)

食事の時に時々、武相荘と記された箸置きが時々登場する。武相荘とは実業家であった白洲次郎氏の私邸の名称であり、東京都町田市にある。この箸置きは、現在では記念館・資料館となっているその屋敷を友人と一緒に訪れた時に購入したものである。私にとって、白洲氏は自らの事業を営んでいく時、時々脳裏に繰り返し登場する実業家の一人でもある。私邸に名称を付けるのもユニークであるし、そのネーミングも独特な掛け合いがあり興味深い。もともと、1942年10月に戦局の悪化を予測し疎開地として古い農家を買い取り移り住んだという。食糧難になることも予測して、農地を耕し自給自足できるように戦時中は農夫にもなった。

白洲氏は、戦後処理に吉田茂首相の側近として、GHQとの折衝に携わるのであるが、GHQ側からの印象は、「従順ならざる唯一の日本人」と称された人物である。特定の個人なので、人によって評価は様々なのであろうが、私の印象では「格好の良い人物」の最右翼として位置づけられている。白洲氏は、物事の判断基準に彼自身の定めたプリンシプル(Principle)を大切にしていた。プリンシプルとは、「原理・原則」、「公理」、「行動の基準」、「根本方針」の意である。周囲の空気に迎合し、あいまいな空気や、時流に流され判断し、深い思慮に欠ける言動をとってしまうことが幾度かあり、その折々に自分自身のプリンシプルの脆弱さに後悔を繰り返す。

組織論の用語に「集団思考・集団浅慮(Group Think)」という概念がある。集団による意思決定が、個人で行う場合と比較して、マイナスに作用し、非合理な的な「愚かな結論」になることを指す。米国の社会心理学者アーヴィング・ジャニス(Irving Janis 1918.5.26- 1990.11.15)が提唱した概念である。組織の意思決定の中で、個人の意見を控え、全体調和を尊重するあまり、適切でない結論を出すことは、ビジネスの世界だけでなく多くの人が、日常生活の中でも経験するのかと思う。私も今まで多くの自己の意見を封印し全体調和に流された経験があり後悔の念は限りがない。ほんの少しの無関心やあいまいさの積み重ねが取り返しのつかない事態に陥ることは歴史が何度も証明している。

些細な日常生活の所作にも白洲氏の大切にしたこのプリンシプルは息づくのであろう。日常の所作に配慮を欠いた弛緩した生活を続けていると、大切な判断の時にその実行が危ぶまれたりもする。そうした訓練も伴うのかと思うと、この「プリンシプル」を追求することはやっかいでもある。

キャリア(仕事)の選択におけるプリンシプルも同じように大切な基準である。何故この仕事を選択したのか、仕事に対峙する時にどのような原理原則で立ち居ふるまうのか、仕事を通じてどのような価値を創造し、他に対して何で貢献するのか。仕事と生き方は切り分けられないところがあるし、連続した時間の流れの中で分断してしまうと自己矛盾を起こす。一貫したプリンシプルが欲しい。

この週末は、武相荘で買い求めた数冊の白洲次郎氏や彼の奥様の白洲正子氏の書籍をわが身の老眼と格闘しながら時間を過ごそうと思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年3月4日  竹内上人

 

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