目白からの便り

リーダーシップの在り方 その1 因果の法則と人間のつくられ方

スティーブンP.ロビンスの「組織行動のマネジメント」(ダイヤモンド社)という書籍が有る。表紙には『世界一読まれている組織行動学の教科書』と記載されている。私は人事経験が長い分だけ、人々の行動や組織の在り方を、その経験値からくる「直観」で判断してしまう傾向が強かった。この書籍では、直観に頼りすぎず、人々の行動の様式を体系的に測定することを強く促す。組織のリーダーが、組織を正しく安定的に「統制」し「開発」ていくためには、組織や人の行動を適切に、「説明」できなければならず、その行動を正しく「予測」することができなければ、組織における優れたリーダーシップを発揮することは困難になるであろう。

「因果の法則」という言葉がある。物事や事象には、結果にはそれに至る原因があり、そのメカニズムを解き明かそうとすること自体が、思考の質を深くし、感情の豊かさを促進させるのだと思う。結果を単なる偶然の幸運な出来事であり、不運な巡り合わせだと受け止め、他責にすればその段階で自らの思考とそこに至るプロセスの感情の使い方の反省を放棄ししてしまう。そうなると、今後自分の眼の前に現れる同様な事象についても、偶然の幸運であり、不運な巡り合わせとしてのみ処理される。

運命と喧嘩しても勝ち目はないのだから、すべてをありのまま受け入れることが大切でもあり、気持ちも楽ではないかという心の声も聞こえてくるのだが、個人の中だけで完結する分には誰にも迷惑をかけないのでそれでいいのかもしれない。しかし、組織やコミュニティなどの人間の集団の中で、その構成する人との関係で何かをしなければならない立場に立つてしまうとそうもいかない。

特に将来ある若い人材との関係性のある組織をリーダーとしてある役割を担う立場に置かれてしまうと、その組織で発生する様々な出来事は、自分以外の誰かのこれからの成長に大きな影響を与えてしまうのである。このコラムを読んでいる方が、たとへば、私と同じような60歳くらいの年齢だったとしよう。自分にとって大切な教訓(レッスン)として心のなかに沈殿しているものは何かと問われたらいかがであろう。私自身は、未だに大学を卒業して最初のキャリアを腕時計工場で歩みだした時に当時の工場長や上司から言われた言葉が今でも心の奥深く刻み込まれている。それは、『自ら感じて、自ら動け』であり、『来たときよりも美しく』や、『重箱の隅をすりこぎでこする』などである。一方で、そうした影響を受け続けている言葉の中には、『酒の量は、仕事の量』、などという、深く人間的対話の時間を取ることの大切さを示すものなのだが、表現として時代錯誤になりつつ有る言葉も有るので注意が必要だ。

他の方には、心に響かない言葉であっても、その言葉と重なる原風景(イベント)がある自分には、上司から示されたその言葉の重みがずっしりと横たわる。こうした言葉は誰しも持っているのだと思うが、原風景を伴った良質な言葉の積み重ねで現在の自分があるのだと思う。自分自身を構成してきた「因果の法則」が、環境の中で生成されていくことに気付かされる。

5月に入り、職場に入った新入社員も新しい環境に少しずつ慣れてきた頃ではないかと思う。身の回りにいる新人がたとへ、正式配属前の現場実習の預かり人材だとしても、最初の頃の職場の印象はその後の彼らの行末に大きな影響を与える。週末の金曜日、気の利いた言葉でなくてもいいので、彼らの存在を大切にしているという気持ちをさり気なく投げかけてほしい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年5月12日  竹内上人

 

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