目白からの便り

受験と就活 他の者と比較せずマイペースで向き合うこと 寺田文行先生の言葉

明日から大学受験を目指す方にとっては、前期日程が始まる。今年1月14日、15日に行われた大学入学共通テストの自己採点の結果に喜び、悩みながら前期日程の受験に向き合っている頃だと思う。私の大学受験は今から凡そ42年程前に遡る。若いころの記憶なので今でも当時の心境は鮮明に覚えている。

『友人の読んでいる雑誌、参考書が気になることがあります。友人の受験対策の方が優れているように見えることもあります。また友人に提示された数学の難問にこだわって、貴重な時間を費やしてしまうこともありうることです。それは夏休み頃までなら、それなりの収穫もありますが、「河中に馬を変えることなかれ」という諺があるように、いまここで今まで君のたどってきた勉強方法を変えてはなりません。「A君は難関校に入った、よくやったな」という話を耳にしたことがあるでしょう。そして、自分の進路を選ぶとき、つい難易ランキングを気にしてしまうものです。大切なことは何大に入ることではなく、大学で何を学ぶかということです。そこに、自分が生涯拠り所にする専門分野がどんな形でおかれているかも大切です。人それぞれに性格も違いますし、そこから発する持ち味も違うものです。日本の社会が貧しかった頃はともかく、今後の社会で、君たちの幸福は学歴だけでは決まらない。私はそう思います。・・・(中略)・・・受験への道はひとりで行く道です。他の人と比べるのではなく、マイペースで一歩ずつ進みましょう。』

これは、当時、ある新聞に掲載された数学者の寺田文行先生(早稲田大学 故人)のコラムである。40年以上たった今もその切り抜きをとってある。私が通学していた高校は自宅から片道2時間以上かかる田舎にあった為、塾などには通うことができず、受験勉強はもっぱら「大学受験ラジオ講座」に頼っていた。寺田先生は数学を担当していた。参考書も「寺田の鉄則シリーズ」というとても分かりやすい参考書を執筆していた。早朝5時、雑音が入る放送をカセットテープに録音し、その後、何度も繰り返し聞いた。後で知ったのだが、私がラジオ講座を聞いていたころ、重度の障害をもったご子息が亡くなった頃と重なる。寺田先生は、その時期、ラジオ放送の数学講座を通じ、受験生を勇気づけ、力強い言葉を発していたことになる。私自身が現在の仕事において障がい者の雇用に関する取り組みのご縁も遥か遠い昔からの縁に導かれていたのかとも思う。

私は職業を選択する岐路に向き合っている方々の支援をする職業に携わっている。3月1日の会社説明会の解禁日を目前にして、何人かの就活生のサポートをしている。あまりにも短い期間で、人生のファーストキャリアの選択をしなくてはならない焦りを面談を通じて感じる。これから実社会に出ていく大学生であれ、企業で豊富な経験を積んだ方に対して、少しでも人事屋としての経験に基づいた支援ができればと思う。こうした方と向き合う時に、寺田先生の言葉にある他の人と比較することなく、自分自身の進むべき道を考え、選択することの大切さが染み込んでくる。就職や転職の先にある、それぞれの方にとって大切な何かを一緒に考えながら、勇気づけられればと願う。マイペースは自分の意志に基づく具体的な行動でもある。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年2月24日  竹内上人

関連記事

新着コラム

  1. クリスマスに思うこと 大丈夫、もう少し時間がある

  2. 障害者のキャリアデザインの環境設計 特例子会社をどう育てるか

  3. 障害者のキャリアデザインの必要性と責任主体

PAGE TOP