目白からの便り

鹿児島の城山から見た風景 コミュニケーションが成立する上で必要な目線

九州を訪れた際に、長く訪れたいと思いながら機会がなかった鹿児島市の中心部にある城山に登ってみた。私にとってのその小高い山というか、丘は、司馬遼太郎の小説「翔ぶが如く」からの印象がとても強い。頂上の展望台からは、錦江湾に抱きかかえられたように桜島の勇姿が迫る。鹿児島の人々はこうした象徴となる風景に励まされながら日常生活を過ごしているのかとしばらくその場から動けなかった。城山は遊歩道も整備されてのだが、小さな尾根や谷が複雑に交差して、一瞬、方向感覚を見失うような地形であった。この場所で、西郷隆盛を首領とした薩摩の憂国の志士は、一刻も早く一等国である近代国家にならんと苦闘する政府の兵士と戦ったのかと想いは巡る。言葉を通じての理解を超え、現場、現実、現物に直面すると空想の中の物語が具体的に自分の記憶に刻みつけられる。

3月1日の会社説明会を前に、就活生の活動は本格化する。日本人学生のキャリアの相談に応ずる機会もあるが、担当する大学の講座の関係から、日本で就労したい留学生の相談に向き合うことも多くなる。日本での雇用の機会をどのように実現すべきか、彼らの前に立ちはだかる就職にあたって最初の関門であるインターンシップや、個人面接、グループ面接、グループディスカッション面接などの就活のプロセスを日本人学生と共に、乗り切るかはとても悩ましいところでもある。更にその選考前過程で企業が求めるエントリーシートやSPIなどの適性検査は日本人学生と同じように課せられ、その対策に苦闘する。記述のテクニックや、適性診断の対策指導をしたほうが本人たちの安心感にはつながるであろう。

だが企業人事の実務担当が最も知りたいのは、留学生がなぜ日本で学ぼうと思ったのか、なぜ日本企業や国内で事業展開をしている会社に自分のキャリアを委ねようと考えているのか、将来的にどのようなキャリアを思い描いているのか、日本の雇用慣行をどのように捉え、自分はどこまで折り合いがつけられて、どこは許容度を超えてしまうのか、そうした人間的な側面である。

学生が具体的な企業を選択する時、出来る限り合理的なプロセスで絞り込みできるように支援している。企業が抱えている現在及び将来の事業戦略の方向性と自身が持つ経験や見識学んだ領域そして自分自身の将来キャリアとの一致性をきちんとストーリーとして描きあげることができれば留学生にとっても長期的な視点でのキャリアを覚悟できる。

このことは留学生に限ったことではなく、転職を試みている人たち全てに共通する。逆に自身の希望が優先してしまい自分がチャレンジしようとする企業の置かれた環境や長期的な事業計画に関しての目線が欠落したまま一方的な押し売りのような思いで面談に挑まれるケースがある。キャリアを考えるときには自分自身の強みやビジョンも大切なのであるが相手の目線に立って考えることも同じくらい重要なのだ。

企業が抱える経営課題に人材という経営資源を通じて、何を期待しているのかということを応募者自らが深く考え、調和できる物語を描きあげることができれば相互にとって良い組み合わせの機会となる。相談を持ちかけられる留学生には出来る限り自分の目線だけではなく、相手の企業の目線でどういった人材が事業戦略の計画の中に盛り込まれているのかを探求するところから物語を組み立てていくことを勧めている。良好な対話は相互の深い理解が必要である。

城山で戦った西郷隆盛も、近代化を急ぐ政府の重鎮も、相互に赤誠の正義の思いで葛藤したのであろう。この出来事の歴史的、政治的、社会的な経験の評価を私は簡潔に特定できないが、相互理解による対立以外の選択肢がもしあるとしたらと考えながら、高低のある曲がりくねった遊歩道を息を上げながら歩く。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年2月17日  竹内上人

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