目白からの便り

文学と人事

今週、時間が取れたので、少し大きな書店を訪れる。最近は書籍を買う場合にITの利便性に頼ってしまうが、目的を持たずに多くの書物のある空間に身を委ねるのはとても大切のように感じる。自分の嗜好に基づき類似性の高い書籍を自動的に提案される世界とは異なり、世の中にこのような視点で物事を考えている人たちがいるのかという主張に遭遇する場面でもある。それぞれの背表紙に書かれた書籍の題名に反応する。

人事の仕事に長くたずさわっていると、人の組み合わせにより様々な作用・反作用が生じるのだと気づく。人を採用する時、人事異動に伴う人の配置をする時、そして昇格昇進を決める時に、仕組みとしてのプロセスを経て出てくる答えに対して感覚的に違和感を覚えることもある。

いつだったか、二十数年前に大学の恩師との会話で、労使関係の専攻学科がかつて文学部の中に所属していたことについて話題になった。人事はまさに文学の世界だと感嘆を込めて話されていたことを思い出す。だから人事管理の専門課程が文学部にあることはとても大切な意味合いを持っているのだと。

人の感情や行動に関する深い人間理解がないと、組織管理をする上での誤りを犯す。人間は必ずしも経済的に合理的な行動や判断をとるとは限らない。素朴なライバル心や嫉妬を年齢を重ねても幼児のように抱くものである。
基準化、標準化された合意形成プロセスに基づく答えに対して、安易に服従するのではなく、人間的な感情・感性に基づいて反応、行動することを棄却しないことも大切である。

この意味で人事の諸課題は、まさに人間関係が交差する文学の世界の延長線上にその答えが格納されているのかと痛感する。自然科学の世界でも社会科学の世界でも科学である以上一定の論理が必要であり、大きな逸脱は避けるべきである。ただ現実的な実践の場面において、最終判断を下す前に深い人間観察に基づく思慮に基づいた選択をすべきであろう。理想をいえば、大切な人事案件に関しては即断即決ではなく、一晩くらい寝かせ、思考が熟成した上で判断することが望ましい。思いもよらない、「因果の関係」に気づくかもしれない。

マネジメントをする立場の人は、経営やマネジメントにおける専門書を読む一方で、時には文学の世界にも自己の時間を割き、正しい人間理解の修養の場をもつことも大切だと感じる。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年4月8日  竹内上人

 

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