目白からの便り

キャリアは自分のことでもあるが、買い手の都合もある

大学の講義も最終盤に近づき、来週の講義で後期が終了する。最終講義では、この4ケ月で学んだことの理解度試験と課題の提出で終わる。留学生向けの日本的経営とキャリアについてシンクロさせた講座では、留学生にとって日本での雇用機会をどう実現すべきかの講座構成としている。今回は不思議なことに、「日本的経営を学ぶ 留学生の為のキャリア設計」の受講者の7割が日本人学生であった。

変化しつつある日本の雇用市場や就労環境であっても、根強く残る日本的な人事管理思想や労働慣行をできるだけ正しく、リアルな視点で学生に伝えつつも、彼らの緊急の課題である選考プロセスでの対処方法のテクニックやその準備の仕方について解きほぐす。リアルなテクニックの話題に素直に反応する学生の表情が、話し手としても興味深いし、実務家として大学で貢献する私の大切な役割かとも思う。

企業人事の視点で知りたいのは、留学生がなぜ日本で学ぼうと思ったのか、どうして、日本国内で事業展開をしている会社に自分のキャリアを委ねようと考えているのか、将来的にどのようなキャリアを想い描いているのか、日本の雇用慣行をどう捉えて自分はどこまで折り合いがつけられて、どこで許容度を超えてしまうのか、そうした人間的な率直な側面を知りたいのである。そして、雇用側の留学生に対する短期の離職を危惧する心情も日本の人材管理の仕組みから理解してもらおうと試みる。

講座では、学生が具体的な企業を選択する時のプロセスでは出来る限り合理的に絞り込みできるように支援する。企業が抱えている現在及び将来の事業戦略の方向性と自身が持つ経験や見識学んだ領域そして自分自身の将来キャリアとの一致性をきちんとストーリーとして描きあげることができれば留学生にとっても長期的な視点でのキャリアを確信できる。

このことは留学生に限ったことではなく、転職を試みる経験豊富な方々にも当てはまる。自身の希望や都合が優先し、チャレンジしようとする企業の置かれた環境や長期的なプランに関しての視点が欠落したまま一方的な押し売りのような思いで選考面談に挑まれるケースが多々ある。組織内での昇進も同様である。キャリアを考える時には自分の強みや想い、個人的な都合も大切なのであるが、相手の視点に立って考えることも同じくらい重要なのだ。最近、キャリアの講話を依頼されると、キャリア設計の三原則の話をする、「キャリアは取引であること」、「キャリアを買い手の視点で考えること」、「キャリアは個人戦ではなく総力戦であること」について解説する。いつかこのコラムでもご紹介したい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年1月28日  竹内上人

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