目白からの便り

EQのこと

今週行った病院の研修プログラムでの振り返り。毎月定例で医療・介護従事者の方々にむけたEQ(心の知能指数)の研修を行っている。今月のテーマは、「相手のことを考え、主体的になにか働きかける意欲の大切さ」についてであった。関連する動画のコンテンツを受講者と一緒に観ながら、何度も見直している動画であるが、いくつかの出来事が脳裏に呼び戻される。

毎年利用している連用日記、その最初のページに挟んである新聞の切り抜き。このコラムでも何度か話題にした文章である。その切り抜きは、8年前に自ら事業を始めた時に掲載された地方新聞の一面の最下部にある「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイで、朝日新聞の「天声人語」のようなものである。時々、気になるコラムは、切り抜かれ、しばらくの間、机の引き出しに眠っている。そうして、いつしか自分の中で整理される。この切り抜きだけ、その役割を終えずそのまま残っている。

『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

厚労省の2017年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、2015年で50.8%に達する。最近の調査結果を探すことができず、どなたかご存じの方があればと願う。相対的貧困率は、所得中央値の一定割合50%が一般的でその「貧困線」を下回る所得しか得ていない者の割合である。国民生活基礎調査の貧困線では年収122.2万円(2015年時点)と定められている。また、この層では約40%が非正規雇用となる。絶対的水準が低いことに加えて、雇用安定性も喪失している。親世代の貧困は、子供の教育機会の不安定化につながり、そして子供の就業環境の不確実性を誘引するといわれる。

身の回りで起きる私たちの心を痛める現実に向き合うことは難しい。EQの研修の時に紹介した自己のささやかな最近の体験は、雨の日に近所のスーパーで、買い物袋を提げて駐車している自動車まで、濡れながら杖を突き、傘をさすこともできずゆっくり歩く高齢の老婦人に自分の持っている傘を差しだし、荷物をもつことの体験だった。かつては、そのちょっとしたことができずにそのまま通り過ぎていた自分がいた。その時にその行為ができたことに感謝する。本当に一歩踏み出せてよかった。社会でも職場でも、声を掛けるべき仲間は、自らの周りにいる。日常の営みを通じて、仕事を通じて、自分以外の人の痛みを感じられる感受性くらいは、持ち続けたい。ばかものになってはならないのだ。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年9月24日  竹内上人

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