目白からの便り

フォッサマグナと霞提(かすみてい)がキャリアに問いかけること(後編)

コラム週報の後編となる。所属するロータリークラブで行われた講演会のもう一つのテーマは、長野県北安曇郡から新潟県糸魚川市を通じ日本海に流れる姫川(一級水系)の下流にある「霞堤(かすみてい:河川氾濫防止の堤防)」についての元高校教師の桐山和雄先生からお話しである。

平成7年7月に起こった豪雨災害(姫川7.11水害)を元にした郷土学習(演題は、『姫川下流の霞堤を題材とした郷土学習』)についてであった。この豪雨災害で、上流地域では鉄道の線路が流され、下流地域では、河川堤防が崩壊する被害が生じた。その被害を踏まえて、姫川堤防の調査を行い、郷土をより身近に理解する上でのプログラムをお考えになられたとのこと。特に水害対策として不連続な防水の機能として構築された霞堤(かすみてい)は、先人たちの治水の知恵と努力の結晶であると深い尊敬の念を抱く。霞堤によって、河川の水流や水量をコントロールする。あえて河川の水系を超えて水を河川外に放流する。水を閉じ込めるのではなく水を抑制的に誘導し、減災を目指すところにその目的がある。

講演の中では印象的な言葉が引用されていた。コロナ禍に向き合う私たちの気持ちのあり様として核心となる言葉でもあった。霞提がその役割を果たす時、つまり河川の水量が限度を超えると、霞堤の内側の地域は水没し、丹念に育てた田での収穫は望めない。そこで稲作をする農家の言葉が興味深い。

『水は暴れるのが自然だがね。今年はダメでも、水が運んできてくれた土が良い稲を育ててくれるから、差し引きゼロだわね』

農家の方々の長い時間軸で、自然と謙虚に向き合う言葉の意味は感動的でもある。現在コロナ禍の中で多くの方々が不安と懸命な格闘を続けているが、私たちが住んでいるこの地域が、大きな地殻変動が続いている地盤に立ちながらも、その環境を長い歴史を通じて、乗り越えてきたことを思いながら、直面している試練にも友愛に満ちた支えと、知恵や献身的な努力で乗り越えられるのだというメッセージが深く情動に刻み込まれる。地殻変動が続く不安定なフォッサマグナの上に住み、必然的に向き合う自然災害から受ける苦労を長い時間軸と痛みの共有で受け入れることによる落ち着きある日常の恩恵に感謝することに気づかされた機会であった。

3月の後半にはいると新年度に向けての人事異動の内示が行われる。自然災害のみならず、キャリアにおいても、私たちは多くの期待と、時にはやるせない思いを感じながら過ごす。前述の農夫のように長い視点で、困難も自己にとって良質な練達、次への備えの時間だと思えるおおらかな気持ちになりたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年3月19日  竹内上人

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