企業の人材育成体系の打ち合わせの場面で、グローバルコミュニケーションで必要な要件は何かということについて問われる機会があった。グローバルという冠がついているので、そこには言語(端的には語学力であり、英語の力量を指す)の問題と、多様な立場や価値観を受容し、共感を引き寄せ、逃さない多様性(Diversity)対応力が思いつく。私は、コミュニケーションが成立するには、3つの要素があると思う。ひとつめは、「伝える力」である。海外にある顧客や販売・製造現地法人とのビジネス上のコミュニケーションや、ガバナンス(統制)を行う上で「英語力」が日本の企業人には決定的に欠けているという切実な危機意識からくる。そして、ゆっくりでも他の言語を学ぶことは「多様性」を感じる機会にもなる。また、敬語も含めた話し方や表現力もこの「伝える力」に入る。
2つめは、相対する人間関係における「感受性」である。相手から発信される微細な心情情報を受信、解析し、自己の感情を最適な状態に管理する能力である。相手の心の変化を瞬時に且つ的確に読み取り、自己の心情をコントロールし、適切に対応させることができる感情のマネジメント力である。こちらは幾度か大学での講座の内容を通じてご紹介しているEQ (Emotional Intelligence Quotient:こころの知能指数)の卓越性に裏付けられる。EQ以外にもMBTI (Myers-Briggs Type Indicator) のように性格を16タイプに分けその違いと特徴を理解し活用するといったものもある。どれも適切に取り入れ活用すると「感情の優れた使い手」になることは間違いない。加えて、冒頭の多様性の対応力も備わる。
3つめは、外交的関係性(Diplomatic Relationship)を理解し構築する能力である。相手にとって自分が有益な存在になるような関係性を演出する能力である。3つのコミュニケーション能力の中で最も難易度が高い。①相手の困りごと、立場を理解し、同じ視点で考えること、②相手の期待値に適合する価値を提供できる要素を自己の保有能力や関係資本(人脈・ネットワーク)から抽出し提供すること、である。前職で次世代リーダー育成のプログラム担当をしていた時に組織論の先生が「ディプロマシー:Diplomacy」というボードゲーム(第一次世界大戦前の緊張した関係にあるヨーロッパを舞台にした覇権を巡って争うボードゲーム)をプログラムに取り入れていた意図を今更であるが理解した。
ただ、伝え方の技術、感受性の感度、立場を理解した適切な対応がいくら練達しても、相手に伝えるべき核心(内容)が伴わなければコミュニケーションは成立しない。日常の仕事や生活を通じて、周囲の雰囲気に無自覚に漂流しないことが肝要である。深く物事を洞察し、本質的なことを希求し続けることによって独特で、良質なものへと熟成されそれぞれの脳裏に沈殿し、その出番を待つことになる。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2021年2月5日 竹内上人