先週、学習院大学の経営学の講義の中で、地方に本社拠点を置きながら、情報機器分野でグローバル且つ大規模に事業展開をしている企業のトップの方をゲスト講師としてWEBでの講義を行った。ご自身の会社のこと、開発者から経営者になるキャリアの流れ、お客様の視点で深く考え、素直な気持ちで向き合うことにより顧客から信頼され、なくてはならない存在になることを希求していた。キャリアとしても事業としても何度も深い危機や、乗り越えされそうもない困難に逃げずに這い上がる美学も感じた。キャリア過程では、そこ沼のような議論と人間的な葛藤も当然のことながら経験したであろう。もがき苦しむ姿は、弱々しさに映るかもしれないが、打たれながらも前に進む姿はかっこいいものでもある。
開発者として世の中にかけがえのない新たな価値を想像し、その後経営者としての道を歩みながら60歳を超えた彼は、経営には組織のメンバーを前に前に押し出していくメッセージと、人間として守るべき倫理観の両輪があるのだと語る。彼の中に内在化する、前者は「創造と挑戦」、後者は「誠実努力」であった。その両方の重りのバランスの中で、優れた人間集団が形成されていくのだと。ちょうど、私たち世代が子供のころに遊んだ「ヤジロベエ*」のようなものである。その両手の広がりが広いほど、安定感が増し、包み込むものも多くなる。ゆっくり、ゆっくり前後左右に揺れながら、機軸はぶれず安定している姿を希求している言葉に経営者としての素朴な熱量を感じる。この絶え間ない継続した連鎖が良質な企業文化を醸成する。
*ヤジロベエは全体の重心が支点(=地面との設置点)よりも下にあるため、安定的に立つことができる。安定性は重心と支点の距離が離れるほど増し、逆に重心と支点が一致すると安定限界となり、立てなくなる
かつて、この週報にも数度引用した京都の家訓がある
『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』
(京都 松栄堂 家訓)
時間の積み重ねの中で、ゆっくりと沁みとおっていき、その組織や人間の規範となる。その意味でもこうした言葉は大切である。言葉は、行動を促し、行動は習慣を形成し、習慣は人格をかたちづくる。組織であれ、個人であれ、こうしたバランスの中で、本来の存在価値を感じながら大きく、広く手を広げて、できる限りの可能性と良質な関係性をじわりじわりと包み込んでいきたいと願う。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2020年12月11日 竹内上人