目白からの便り

人を巻き込む力の源泉とは

仕事をご一緒する名古屋の経営者の方との会話の中で、心に残った言葉に出会う。その言葉は木材加工の業界新聞の冒頭、協会トップから経済環境が厳しい中の経営者へのメッセージとして添えられていた。

“If you want to go fast, go alone.  If You want to go far, go together.”
『速く行きたいなら、一人で行きなさい。遠くへ行きたいなら、みんなで行きなさい』
アフリカで長く伝わることわざとのことである。アルゴア米国元副大統領が、ノーベル平和賞授賞式スピーチで引用したのだが、正確な出典は定かでない。

この言葉を考えながら、脳裏に蘇った場面がある。かつて、企業研修の事務局で対応した時の日本人海洋冒険家の講話であった。その冒険家は、VENDEE GLOBというヨットで世界一周をするレースにチャレンジをしている。単独で無寄港、無補給という厳しい条件のレースに向き合っている。

出発地はフランスの港でそこから南アフリカを回り、オーストラリアと南極の間を抜け、南アメリカの最南端を通り、再びフランスの港に戻るというレースである。講演の時に話された内容では前回のレースでも途中でヨットの生命線ともいえるマストが暴風の中でその風圧に耐えきれずに折れケープタウンに引き返すことになった。言葉で表すことができない悔しさであろう。彼が講演中何度も言葉にした、「何もしなければ、何も起こらない」、と言うメッセージがいつまでも脳裏に刻まれる。彼は、自分のチャレンジが困難な場面に向き合っている人、特に子供達が夢を持ち、自分を取り戻す機会になればと挑戦し続けるのだと。今年も11月にこの大会は開催される。そしてこの日本人海洋冒険家は出場する。

リーダーシップを考える時にとても大切なことは、その人が持っている知識の絶対量ではなく、とてつもない純粋な情熱のエネルギーに裏付けられた実践の積み重ねである。自分自身と格闘することによってのみ得られる「力の源泉」である。その純粋なエネルギーが他者に共感を届け、支える人の輪ができる。ヨットの航海は単独であるが、そのプロジェクト自体は多くの仲間によって支えられる。冒険家であっても、研究者、実業家、あらゆる職業に従事する方にとって、何かにひたむきに真剣に向き合い続けることによって、他者を巻き込むことができる。周囲の空気に流され、漠然と漂流し続けるのではなく、自ら舵を握って、風をとらえ、仲間を信じ、自分の内面からくる言葉を羅針盤として、駆け抜けていくことが、自らを鍛錬し、人を勇気づける。今日もそうしたことを少しでも実践する一日でありたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年10月23日  竹内上人

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