目白からの便り

キャリアにおける応援歌

『もはや絶体絶命 どうせ敵うはずはないない そんな考えはくだらない 勝負はここからだ 大逆転は起こりうる』

長野県内の地方紙のコラムに地元の高校の書道部によって大きな台紙に描かれた力強い書道の作品が、記事とともに取り上げられていた。若い前向きなエネルギーがあふれる言葉で、未来への可能性を断固として信じる意気込みが伝わる。作品は永禄三年(1560年)の織田信長軍と今川義元軍の戦いがモチーフになっているとのこと。この高校の書道部は、高校書道の甲子園とよばれる「書道パフォーマンス甲子園」で優勝をしている実力校でもある。かつては女子高等学校で、古くは戦時中に男装の麗人と呼ばれた川島芳子(よしこ)氏や、芸術家の草間彌生(やよい)氏がいる。

私が、大学の講義や企業研修でもよく取り上げるキャリア理論のひとつに1999年にジョン・D・クルンボルツ(John D. Krumboltz)氏らが提唱した「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)がある。キャリアの8割は予期しない出来事や偶然の出会いによって決定され、その予期しない出来事を受動的に待つのではなく、主体的に創造できるように積極的に行動し、周囲の出来事に気を配り、自分にとって望ましい環境変化を意図的に起こりやすくする機会の可能性づくりに目を向けることの大切さを促す。このキャリア理論に初めて触れる学生や企業の受講者の反応は毎回好意的であり共感的である。そればかりか、講義を行いながら自分自身へ動機づけしているような錯覚に陥る。

「計画化された偶発理論」を実践する上で大切な姿勢が以下の5つある。①好奇心:継続的に新しい学習の機会を求めること。②持続性:失敗にあきらめず、前向きに努力し続けること。③楽観性:新しい自分にとって都合の良い機会は必ず来ると信じ、ポジティブに考えること。④柔軟性:固執したこだわりを捨て、柔軟に信念、概念、態度、行動を変えること。⑤冒険心:可能性を信じ、リスクを取っても行動を起こすことに躊躇しないこと。

コロナ禍の影響が続く中、ビジネスやキャリアにおいて困難な局面と向き合っている方も多いのかと思う。冒頭の書道部の可能性を信じて突き進むエネルギーを、確立したキャリア理論と合わせて自己に内在化させることは、前にむけて恐れず歩み続ける強烈な応援歌となる。失うことによって得られることは多くある。失うことをただ恐れ、落胆するだけでなく、新しい可能性の切符を手に入れたと考える思考をできる限り多くの場面で持ち続けたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年10月16日  竹内上人

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