目白からの便り

転職 新しい職場 90日・180日・365日の過ごし方

早朝の松本は2度、寒気が空気中の水分を振り落とし、透明感ある朝日が反射する北アルプスの山々を見通すことができる。常念岳の三町はすっかり白色におおわれている。今年は山登りはあまりできなかった後悔を抱く。来年は計画的に登山計画をたて、易きに流されず、実行したいと願う。

転職して間もない方から、新しい職場での出来事を伺うことが多い。一生懸命に仕事に向きあう気持ちが強い人ほど新しい職場に自らを適合させようと格闘している。そんな新しい環境に着任した人へ送りたい人事屋の目線で感じたことについて考えてみる。

「最初の90日間の過ごし方」

最初の90日間は、仕事を進める上での良い人間関係を構築する期間になる。そのためには、この会社がどのような背景で事業成長をたどってきたかということを会社の内側の空気を敏感に感じ取りながら理解を深めていく期間である。様々なルールや職場慣行に戸惑うことが多くあるであろう。転職の人たちを受け入れる企業は新しい考え方や価値、改革を期待し、評価して採用を試みるのだが、職場の中で日々のマネジメントをしている人たちは、彼ら、彼女らなりに既存の業務プロセスを進めていくことに自信と誇りを持っている。

それぞれのやり方や職場のルールというものが、新しい人から見ると違和感を感じることもあるだろう。特に着任後3週間ほどが過ぎると少し職場の雰囲気にも慣れてくるので逆にそれが気になってくる。ここで焦ってはいけない。きっと特異、理不尽に映る職場の慣行やルールにはその会社や職場が経てきた歴史的な背景があると理解した方が良い。もしかすると微妙な職場構成員の関係の中で仕事のスタイルが出来上がっているかもしれない。冷静に客観的に現状を整理し出来る限りそのいきさつを調べあげることが大切である。

創業経営者がマネジメントする会社であれば、より丁寧にその会社の生い立ちであるとか、経営者がどのような気持ちでその会社を立ち上げ、苦労して、今日に至ったのか、経営者の目線で考えてみることだ。

「次の180日目までの過ごし方」

うまく人間関係を構築して新しい職場に同志として、仲間として受け入れられることを実感できたら、最初の90日間で整理していた現場把握に基づいて、問題や課題の整理と重要性を評価する。もし、不幸にもその実感が得られなければ、もう一度、最初の90日間でやるべき人間関係の信頼づくりをはじめからやり直せばいい。
現状把握の過程もできれば単独で行うのではなく、90日間で築き上げた人間関係を土台にして一緒に取り組めるように相談をしていくことが肝要だ。その相談のプロセスを通じて、新しい発見も得られるであろうし、相談をすることによって、同僚や上司、部下に対して敬意を払うことになる。敬意を払う人に対して、人は決して軽んじない。

この要因分析のプロセスを通じて、概ね、取り組み課題が明らかになってくる。心強いのはこの取り組み課題の明確化に同僚や上司、部下の共同意識が醸成されているという事実である。出来る限り自分の手柄ではなく、軽口を慎み、共同で考えてきたという意識になりきりことである。

「最後の365日目までの過ごし方」

何とか1年間を過ごすことができそうだと実感を得られる時期である。この頃には、深い人間理解に基づいた会社、事業、職場の問題・課題の明確化と、なぜそのような解決すべき問題と、達成すべき課題に至ったのかという要因分析に基づいた取り組み施策の着手段階に組織活動として入っていることが望ましい。1年間を通じて新参者は、極端に遠慮する事は必要ないが、同僚や上司、部下との協働意識をもった姿勢や立ち居振る舞いを意識して過ごしていくことである。

焦る気持ちをひたすら抑え、ひとつひとつの事象について、組織として取り組める環境をつくれれば、その後の数年はきっと充実した時間を積み上げていくことができるであろう。その過程を通じて、その人の風格を際立たせ、職場にその人の風味を醸し出す。

『・・・焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい。世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません・・・』
苦闘した受験生時代に現代国語の問題集の裏表紙に掲載された芥川龍之介に送った夏目漱石の手紙の一文が蘇る。昔も今も正しい人間理解はそんなに変わらないのだと思う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人

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