目白からの便り

企業の社会的価値

今朝の都内は心地よい光が放射線のように届いている。週末は近づいてくる台風の影響で天候は崩れるというが、前回の台風で被害にあり、復旧が進んでいない地域の方のことを思うと天気予報が外れてくれないかと願う。

都内の大学では夏季休暇も終了し、今週から後期での通常講義が始まった。半期ごとの履修科目の講座もあれば一年通期で構成している講座もある。必須科目で、私が担当する講座を二年ほどかけて履修する過程の学生もいる。

今週からスタートした学習院大学での後期の最初の講義は組織間関係についてであった。企業集団、企業グループ、系列の意義、クローズドネットワークからオープンネットワークへの潮流とそれを阻害する組織と人間心理のしがらみ、また価値創造プロセスでの「垂直統合型の事業形態」と「水平分業型の事業形態」の利点と課題について設問を通じてグループで議論しながら理解を深める。再来週からは、特に留学生が主たる受講生である横浜国大、東北大学、信州大学でも講義が始まる。秋入学の割合が多い留学生にとっては、日本を訪れ、大学に入学したばかりの新鮮な気持ちを教室に持ち込んでくる。

先日、土木・建築業界で人材育成、特に企業内大学校の基盤づくりを人事部の方と一緒に取り組んでいる会社の大阪工場を訪れた。大型の工作機械が折り重なるように並び、鋼(はがね)の塊がクレーンで移動する工場である。そこで不思議な風景に出会う。作業現場をすれ違う方が、自分の胸に右手をあて、少しの笑みと、軽い会釈で行きかうのだ。

工場を出て案内していただいた方にあの動作、しぐさの意味はなんでしょうかと問いかけると、いつから始まったかわからないが、「どうぞ、ご無事に」という意味を込めてのメッセージが込められているという。近くにいても声が聞き取りにくい鋼が重機で釣り上げられ、体に感じる重厚な振動とともに加工される現場で、言葉を超えて、働き手が同じ同僚思いやる仕草にその会社がもつ企業風土のあたたかさを感じた。

土木業界において、橋梁などの社会インフラ資本整備の事業は営利事業としての価値以上の「働く意義」を社員が直接的に感じるのであろう。災害復旧の現場に近ければ近いほど、その感覚は深くなる。そのリアルな体験談を踏まえた事業説明の言葉は企業に所属していない私にとっても励まされ、働くことの大切さのメッセージに変容する。採用活動でも学生にそのことを伝えているのであろう。

企業が事業収益だけでなく、なにか社会的な側面に深くかかわろうとする姿勢は、若い年代の方にとってこの上なく大切なメッセージとして確実に届く。そして、その積み重ねが企業に対する信頼感と在籍する誇りにつながっていく。体系的な人材育成・教育プログラムを凌駕する大切なメッセージである。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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