目白からの便り

職業意識がもたらす価値

今週は、都内のいたるところでリクルートスーツに身を包んだ学生の集団に遭遇した。講座を担当する大学の構内でも着慣れないスーツに自分を合わせこもうとする姿に少し心が痛む思いを感じる。
就職活動をしている学生にとっては、6月の初旬は実質的な内定先企業を確定し、試行錯誤した職業選びの節目となる。まだ活動中の学生にとって焦りは募るばかりであろう。

企業を選ぶ側の学生も、学生を選ぶ側の人事も、長い神経戦を繰り返す時期でもある。厳しい神経戦の中で学生にとってもキャリアの意識の中には、「職種」の概念が薄くなる。どの企業を選択するのか、受け入れてもらうのか、というところに神経のほぼすべてを注ぎ込むのが精いっぱいで仕方がないのであるが、入社後も基準となる職業観をもつことなく、受動的に付与された専門的な経験を積み重ねることになる。

幅広いローテーションの中で多様な経験を通じた適材適所を突き詰めていくことが応用動作と論理的思考に長けた人材育成にすこぶる有効であることは確かであるが、願わくば、基準となる専門領域を鏡にし、幾つかの職種と格闘することができればその経験の質は一層深いものになる。

「就職」という言葉が構成される本来的な意味は、やはり生涯歩むべき「職業」に就くという意味が語源としてあるのであろう。たとへ、本来の思考や想いと異なる職業についていたとしても、意識として自分の基軸となる職業は何かということを考え続けることが大切だと思う。職業意識を持つことが、組織と正しく向き合う自己を確立する。

自己を規定する職業意識を持ち合わせないと、所属する会社を離れざる得なくなった時にキャリアにおける自己規律と規範を失うことになり途端に迷走する。企業にとっても単に年齢を積み重ねてしまった職業貢献意識に乏しい依存体質の人材を抱え込むことにもなる。

担当する大学の一つの講座で、私の知人の力を借りて学生に自己のキャリアと職業観について語ってもらう講座を今年から初めて取り組んでいる。その言葉をグループ討議を通じて、自己への内在化を試みる。
先日、私自身も深い気づきを得た。他にとって良質な変化を導く起動は他者にあるのではなく自己の中にあるのだと。起動することにより自らが苦労することが分かっていても、敢えて深い倫理観に支えられた専門的な職業意識が、その難題と向き合う起動スイッチをおす。艱難と試練は、必ず練達と希望を導く。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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