今日の都内は低く雲に覆われ、湿度が高い朝を迎えている。今週末から暦の上では長い連休に入る。ゆっくり休養する計画をもたれている方、あるいは旅行に行かれる方も多いのかとも思う。その一方で、この時期だからこそ、仕事が忙しくなる方もいる。
5月のこの時期の習慣で、よく書棚から引き出される古い書籍があった。今年は4月に入る頃から移動時には携帯するようになっている。大学での講義の付帯資料としてその著者の想いのいくつかの個所を抽出し、大学生の年代の若い人にとって大切だと思われる言葉を、自分の経験を加味して講義のスライドに差し込んでいる。
「学生に与う」と題された河合栄治郎氏の著作である。河合氏は当時の東京帝国大学の経済学部の教授であり社会政策・労働経済研究の第一人者でもあった。すでに絶版されているようで大きな本屋でも、ネット書店でも探し出せず、かろうじて中古本で求めるしかない。学生にこうあってほしいという氏の願いを込めたものでもある。
この本は、1940年6月15日に日本評論社から出版された。戦時下の統制が厳しくなる中、河合氏は1942年に一切の文筆活動を禁止され、43年には出版法違反にて有罪判決、翌44年に亡くなっている。53歳であった。
個人的には、その中の第二部「私たちの生き方」の中に組み入れられている「日常生活」の項を読むのが好きだ。そこに綴られている言葉にとらわれる。『・・・何よりも大切なことは一定の計画(プラン)を立てて規則正しく生活することである。プランをたてるなどとすると、縛られて窮屈だという人があるが、自分のプランで動いていない人は、多くは他人のプランで動かされているものである。・・・』と冒頭から手厳しい。その後一日の模範的な生活の組み立て方に続く。暴飲暴食をしてはなぜいけないかとか、スランプの時にはどうしたらいいかということにも触れている。経験則に従ったきわめて実用的な手引きなのである。
生涯の仕事をどのように積み重ねていけばよいか、キャリアを設計するということもある意味で窮屈な事でもある。しかしながら誰にも拘束されずに自らの意思をもって歩むということはすこぶる「自由」でもある。自らに課したプランや原理原則に従うことは、実は他人に自らの「自由」を奪われないということである。窮屈なことも自分を感じる大切な時間でもある。
今から75年ほど前、国家のプランにも屈せず、言葉で自由を全うし、学生に語りかける愛情ある責務を全うするために信念をもって格闘した研究者の心意気に深い敬愛の気持ちを感じる季節を再び迎えた。今年はこの書籍を例年とは異なり、能動的に活用できることに感謝しつつ。
今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。
都内にて 竹内上人