目白からの便り

あなたの働きによって救われる対象は誰か

あたたかくなったり、急に冷え込んだりと寒暖の差が身体の体温調整機能を活性化してくれる。表参道のあたりも少し肌寒い朝を迎えている。

連用日記に挟んである新聞の切り抜きが目に留まる。以前にもこの週報で紹介したことがある京都のお線香を家業とするお店の家訓である。

 『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』
(京都 松栄堂 家訓)

家訓であるから、その家の家業をどのようにマネジメントしていくかを、先代が後世の継承者に戒めをもって伝えたい言葉なのであろう。
それ以来、この言葉が、「働く人」のキャリアの在り方と重ね合わせられる。今月は、いくつかの民間企業の研修を受け持った。若い世代の方々を対象にしたキャリア研修と題されたプログラムである。多くの働く人が、自分自身のこれからの働き方の基本デザインをどのように描いていけばいいのかを感じる機会でもある。現在を肯定しつつも、これから先、このまま歩んでいけばいいのか、普段は表に出すことをためらうこの面倒な宿題を研修の場によって、物置小屋の奥から引っ張り出される。

私は、ひとり一人のキャリアの設計も、企業の戦略策定の描き方と類似性があると考える。正しい経営戦略を有している会社は、市場から求められ続けられ、社会に不可欠な価値を提供し続ける。当然のことながら組織のモチベーションも高く、働く人たちの職業倫理も高い。

個人が向き合うキャリアの設計図も同じようなことがいえる。極言すれば正しい手順と描き方で、キャリアデザインという自分自身の職業計画書を策定し、日常管理のプロセスで自己マネジメントを適切に行えば誰でも社会にとってより頼りにされる卓越した人材になる。EQ(Emotional Intelligence Quotient)という便利な感情マネジメントの道具もある。

これは、持って生まれた素質ではなく、後天的に習得できる技能なのである。企業経営がそうであるように、活動の停滞を市場や顧客に転嫁した瞬間にその組織の自律性は劣化する。成長を急ぐあまり、論理の飛躍した経営判断をすることによって手痛いしっぺ返しを食らう。生身の人間のキャリアも他者に自己の不活性化の原因を転嫁した瞬間に輝きを失う。

混沌とした職業環境に落ち込んで途方に暮れている方の救援活動も行いつつ、こうした気づきや学びの場を提供したい。4月から新たに学習院大学で経営総論の講座を受け持つ。経営の基本的な枠組みを実感をもって考える時間にする為、学生のキャリア設計のプロセスを重ねていくいくことをシラバス(授業計画書)に明記した。企業が最初に問われる「顧客は誰か」という出発点をキャリア設計の最初の質問と最終講義の質問にしたい。「あなたの働き(キャリア)によって救われる対象は誰か」と。

今日一日が良い一日となりますように、災害が後にあり、非常な困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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