目白からの便り

コンプライアンス 抑止力としてのキャリア自立

今朝の松本の外気温は例年の信州の朝に感じる心地よい冷気に包まれる。美ケ原の王ケ頭の山頂も薄い霧に覆われ、ひんやりとした空気の中にあることが、ふもとから眺めても体感できる。

ロータリークラブ(国際ロータリー 第2600地区)の職業奉仕事業の一環で長野県にある松本大学で「出前講座」の機会を得た。松本大学は松本市街地から車で10分ほど、上高地へ向かう道の途中にある。立地柄、観光ホスピタリー学科や人間健康学部などをユニークな課程を有する。

地域のロータリークラブの会員が全15コマの講義を分担する。私が与えられたテーマは、「企業のコンプライアンスとモラル」であった。人事屋の私はサブタイトルを「コンプライアンスに向き合うキャリアのつくりかた」とした。

コンプライアンスに起因した企業倒産は東京商工リサーチの調査で、毎年約200社に上る。それぞれの企業は、企業統治(コーポレートガバナンス)や内部統制(インターナルコントロール)を強化している。

問題になる領域は、不正会計(粉飾決済)、品質偽装、不正受給、労働環境の脱法行為や過重負荷労働の強制、食品衛生問題、個人情報流出など多岐にわたる。マスコミに取り上げられ、それぞれ記憶に残る。

発覚の発端は内部告発によるケースも多い。インターネットの普及とともに組織内と組織外との垣根が低くなり、情報が流動化しやすくなった環境変化も影響する。

内部告発で明るみに出るころには事態の深刻度は致命的なところまできていることが多い。もう少し早く、組織内で修正機能が働いていればと思う。現場では極めて良心的な「働き手」が、組織の論理や上司への過度の忖度により、冷静な判断を喪失し是正タイミングに後れを取ってしまう。規定やルール化など制度的な規制には限界がある。最後は人間系の抑止機能が正常に働くか否かにある。

こうしたことを考えると、働く一人ひとりが深く考える習慣を持ち、キャリアの自立性が高ければ、客観的で倫理的な判断が組織のあらゆる階層で正常に機能し、組織にとって致命傷にならずに未然に自浄作用が働くかもしれない。
「働き手」にとっても良心の呵責に耐えながら、偽装や不正を看過することなく正しく上層部に意見具申ができる。倫理観を内在するキャリアの良質性や自立性を促すことは、組織にとっても有効な戦略につながる。

講義ではこうしたことを、わかりやすく伝えることを試みた。回収した100枚ほどの講義レポートを採点しながら、20歳前後の学生が卒業後、組織人になり、自らこうした事態に直面した時の身の処し方の糧になればと願う。

最後の一線を踏み外さない倫理観の形成は知識の絶対量でなく深い教養による。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

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