目白からの便り

採用面接 痛恨のエラー

みなさま

昨夜から伊勢を訪れている。早朝の伊勢は、穏やかな天気を予感させる空模様である。早朝でも肌に感じる空気は夏の湿った感覚を覚醒させる。

5月も半ばになると実質的な就職活動の折り返し地点になり、すでに早々と内定を決めた学生がいる。大学で学生と接するようになって3年半が経ち、横浜でも、仙台でも自分が関わった学生たちから内定したという連絡を受けることが増えた。そうした声を聞くと我が事のように嬉しく感じる。これからどのような残りの学生生活を過ごし、どのような心持ちで入社式に臨むのかと想像する。

その一方で、自分の志望する企業の切符を入手することができずに悪戦苦闘している学生もいる。先日、地下鉄のホームでパンをかじりながら不安そうにスマートフォンの画面をチェックしている明らかに就活中の学生を見かけた。しっかり食事をしてるのかと思うほど細い体つきでもあった。その瞬間、胸に絞られるような感覚が蘇る。

新卒の採用において、私には今でも悔やまれる痛恨のエラーがある。若い頃、採用担当で地方の工業系の大学院大学の男子学生を不採用にした。彼はとても成績も良く優秀な学生であった。さらに人柄もとても好感が持てた。ただ幼い時に難病認定された重い病を経験した履歴があった。今では完治し、再発は無いだろうと主治医から言われていることを面接の時にはっきりと私に話してくれた。研究が好きで遅くまで実験を繰り返していると言う。だから心配しないでほしいと。会社に入ってもしっかり働くことができると語ってくれた。

しかし私は彼の採用を見送った。私は再発を恐れ、できれば実家から通える企業に就職したほうがいいと判断した。あの時の判断は間違っていたのだ。採用担当者としての失敗を恐れ、できるだけ無難な人材を採用しようとしていたのである。

パンをかじりながら懸命に就活をする学生の姿を見てあの時の男子学生は今どうしてるかと思う。25年以上も前の話なので今は50歳位になっているはずだ。きっとどこかの会社か研究機関で優れた技術者になっているのだと確信する。

必死で就職活動をする学生を前にして、失敗を恐れ無難で保身的な判断をした当時の自分を後悔する。きっと今でも私の体の中には保身の種子が眠っているのだ。それが再び繁殖しないように、人間が持つ可能性に目を向け続けるべきだと自分自身に言い聞かせる。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

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