目白からの便り

何もしなければ、何も起こらない

みなさま

中央線で松本に向かう列車から遠く望む北アルプスの山々はすっかり雪で覆われていた。それに向き合う美ヶ原の山頂も同じように白い姿になっていた。冬は確実に近づいてきている。

ある場所で、日本人の海洋冒険家の方のお話を聞く機会があった。その方は、VENDEE GLOBというヨットで世界一周をするレースにチャレンジをしている。しかも単独でどこの港にもよらない無寄港、無補給という厳しい条件の中でのレースに向き合っていた。

出発地は、フランスの港でそこから南アフリカを回り、オーストラリアと南極の間を抜け、南アメリカの最南端を抜け、再びフランスの港に戻ってくるというレースである。前回のレースでも途中でヨットの生命線ともいえるマストが暴風の中でその風圧に耐えきれずに折れてしまい南アフリカのケープタウンに引き返すことになった。言葉で表すことができない悔しさであろう。彼が言葉にした、
「何もしなければ、何も起こらない」、と言うメッセージがいつまでも脳裏に刻まれている。

何度も生命の危険と向き合いながら積極的に究極のヨットレースに立ち向かい続ける姿から発せられると、この重みはかけがえのない至高の言葉となる。何かに真剣に取り組み格闘している人からのみ感じられる言葉の重みである。

リーダーシップを考える時にとても大切になことは、その人が持っている知識の絶対量ではなく、とてつもない情熱のエネルギーに裏付けられた実践の積み重ねである。自分自身と格闘することによってのみ得られる「力の源泉」である。第三者の引用ではなく、その人の実体験に基づく言葉によって、人は合理性の限界を超えた影響力を感じ、その人についていこうという衝動に駆られる。このことは冒険家であっても、研究者であっても、実務家であっても全て同じである。何かに真剣に向き合い続けることによってのみ行き着く場所があるのだ。

「何もしなければ、何も起こらない」

キャリアにおいても自分を失い、周囲の空気に流され、漠然と漂流し続けるのではなく、自ら舵を握って、風をとらえ、自分の内面からくる言葉を羅針盤として、駆け抜けていくことが、自らを鍛錬し、人を勇気づけることができる。
今日もそうしたことを少しでも実践する一日でありたい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

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