目白からの便り

根は見えねんだなあ  リーダーシップの姿

早朝の伊勢はまだ陽の光が差し込まず、天気の状態は判断できない。天気予報では、晴天の予報。年末に向けて、少しずつ慌ただしくなる。

企業研修などでリーダーシップについての講座を持つことが多くなった。リーダーシップは様々な立場で多様な発揮を求められる。実際に組織の階層の立場にある方も、組織ではないが多様な方々に影響力を発揮しないといけない立場にある方も同様である。もちろん家庭においても同様の風景に直面する。

私は、前職の会社に入社後、すぐに関連子会社の腕時計の会社に出向した。最近は見ることがなくなったALBA(アルバ)ブランドの時計を生産していた。そこでサラリーマンとして、人事の仕事につくことになる。

人事部の居室の近くにある社長室の壁にかかってあった額の中にある言葉にいつも目がとまった。そこには独特なユニークな毛筆文字で、

『花を支える枝 枝を支える幹 幹を支える根 根は見えねんだなあ 相田みつを』

と書かれてあった。

何かの機会に社長に尋ねたことがある。その時の答えは、記憶が確かではないがおおむね次のようなことであった。ものづくりにはいろいろな人が関わっている。しかし仕事をしている人の中では、商品企画や開発設計など、比較的、周囲に注目され脚光を浴びる仕事をする人もいるし、地道に自分に与えられた仕事を丹念に行い続けている人もいる。いろいろな人の手を通じて腕時計は作られているのだと初老になりつつある社長は笑みを携え、とても大切なことを仕事に就いたばかりの私に伝えようとしていた。

当時の私は、その地道な仕事を丹念に行い続ける人のイメージを製造現場にいる人のことだと感じていた。

入社後半年間、腕時計工場の中で実習をしていた体験からそう感じたのである。工場の中はとても居心地が良かった。何しろ毎日やることが明確で、やるべき作業の質をいかに高めていくか、また昨日よりもより多くの加工品を作り出すことができるかという素朴な目標を立て作業をする楽しさがあった。一方で時々、工場の中だけの空間にいると世間から隔離されたような感覚にも陥った。身体を作業用防塵コートで身を包みながら仕事をしていると外界との関係を断ち切られたような焦燥感にも駆られることもあった。

だから社長は常に自分の心に周囲に普段接することができない人たちのことを考えていくことが大切であるということをその額の中の文字を見るたびに思い起こしたのではないかと感じた。それは、ひとつの象徴的な行動でもあった。

相田みつおさんの額が社長室にかかっていることを製造現場の管理職の方は見る機会があったに違いない。そこで彼らは社長が自分たちのことを忘れていないのだと確認し安堵する。そして製造現場の仲間にその安心感を持ち帰る。良質な人間関係が組織の隅々まで届く。日常的に接点がない人たちの気持ちを考え続けていくことが組織のリーダーの役割だと感じた。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

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