目白からの便り

宮沢賢治

みなさま

週報と言いながら、3週間もお休みをとることになった。毎週金曜日に一週間を通じて感じたことを言葉にすることを試みたのだが、想いはあるのだが、文字にすることがなかなかできずに、今朝も書くことができないと、焦燥の念で断念する金曜日の朝が続いた。

気分転換に東北旅行で花巻を訪れた。訪れた日の気候が、どんよりとした曇り空、時より小雨が降るといった塩梅で、なんとなく、イギリスの北部を旅行した時のような感覚と重なる。私にとって、花巻はいつか訪れたい特別な地でもあった。

少し肌寒く、どんよりとした厚い雲に覆われ、湿度を感じる気候、時間の進み方が明らかにゆったりしている。こうした空間は、自らの関心を内へ内へと誘い込む。この空気感で育ったことが、宮沢賢治の独特な世界を産み出しているのかと現地に滞在して思った。

日常を超えて、深く何かを考えたり、想像したりする時には、人間は喧噪を離れないといけないのだと。

宮沢賢治で頭に浮かぶのは、「注文の多い料理店」、「銀河鉄道の夜」などの物語であり、あの「雨ニモマケズ」という散文である。

その重厚で思慮深い言葉の流れの中で、私が心を引き付けられるのは、後半である。

『・・・東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ  ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ・・・』

30年以上経験した企業の人事の仕事を離れ、現在の職業に就いてから、キャリアにおいて節目と向き合っている多くの方と会う。本当に深刻な場面に直面してる方も多い。
多くの場面で、力量不足の為にその方の窮地を救い出すことができずにいる。そうした時に、この宮沢賢治の後半の文章が私の脳裏を静かによぎる。
だから、その地に行きたかった。どのような空間でこのような文字を書くにいたったのか肌で感じてみたかった。

この散文は小さな手帳に数ページにわたり、丁寧にという感じの文字ではなく、気持ちに任せてという勢いの文字で書かれている。そのバランスの悪い文字の形が、切実さを感じた。

自分でできることは限られている。限られている中で、できるだけのことをする。
花巻の旅行はそうした慰めと少しの勇気を与えてくれた時間であった。
等身大以上のことは、無理が生じるが、せめて等身大のことは愚直にやり続けたい。

今日一日が良い一日となりますように、避けられない悲しみに向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

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