今まで10年間ほど、毎週末に人事の現場で体験した出来事を中心に短いコラムを書き重ねてきた。こうしたコラムを関連するコラム同士を「仕事」、「リーダーシップ」、「チームビルディング」、「コミュニケーション」、「セルフマネジメント」、「キャリア」、「新しいチームに入る時」という7つのカテゴリーに分けて、各カテゴリーを5話ずつ抽出して、編纂を試みた。この編纂は、それぞれのコラムをエピソードとして、コラムで取り上げたキーワードについて解説的に取り上げることと、コラムに関連した設問を2つずつ問いかけることによって、コラムに関する読者の考えを深めてもらうための構成にしてみた。可能であれば、大学での講義の教材として、企業での研修の教材として活用できる書籍になればと準備している。すべてのコラムが人事屋としての自分自身の体験的気付きからのテーマなので、読み返してみるとその内容に関して様々な思いが広がってくる。10年ほどコラムとして書き続けてきた400話ほどに積み重ねられたエピソードを読み返しながらもう一度、それぞれのエピソードで感じた想いを整理していきたいと思う。そして、今回、そのエピソードの最初に選んだものが、学習版「労働の価値 英国のペンキ職人」である。イギリスの地方の田舎の村の駅でホームに白いペンキを塗りたくるペンキ職人の労働の現場に立会い、仕事に関する楽しさと、仲間と一緒に労働の時間を過ごすあたたかさを感じた出来事で、仕事に対する価値観や働く仲間とのあり方を問われた体験でもある。
1.1 労働の価値 英国ペンキ職人
研究の場で、インクルージョン(Inclusion)に関するテーマが取り上げられる機会が多くなった。単語の意味自体は、「包含」や「包括」という意味であるが、経営学では組織に関わる関係者が、その組織機能に主体的に参画する機会を持ち、個々人が持つ経験や能力、考え方が仲間に尊重され、活かされている状態を目指すことがマネジメントに必要であるという。類似した概念にダイバーシティ(Diversity)があり、多様性の確保、機会均衡の指針として使われるが、インクルージョンは多様性を前提に、多様性の中にその個々が有する様々な個性が組織に含まれ、尊重され、活用されている状態を示すのであろう。
ずいぶん昔になるが、旅行先のスコットランド中部のピトロッホリー(Pitlochry)という村で、今でも鮮明に残る記憶がある。その村の駅で列車を待っていた時、3人のペンキ職人に出会う。駅のホームの側面のブロックに白いペンキを塗っていた。それが、とても楽しそうなのである。一人はホームの上で安全のために列車の通過を確認する役割、他の2人が、下塗りと本塗りの分担を定め、少し間隔をあけ、並んで白いペンキを塗る。ホームの上の男性は、大きな声で歌いながら、時々線路上を歩きながらペンキを塗る2人に声をかけている。こんなに楽しそうに仕事をする人たちが世の中にいるのかと、痛烈な記憶として刻み込まれた。
日本的経営の主要機能は、終身雇用、年功序列、企業別組合であるが、これらは、少しずつ時代の環境変化に伴い変化を余儀なくされている。しかしながら、長期的な視点での心理的安全性を支える雇用保障の概念と、経験年数に基づき支払われ、また職場間のローテーションを人材育成の重要な要素にしていく上での賃金体系の思想は今も根強く残る。これらは、日本企業の成長の源泉ともいわれてきた。
ただ、冷静に考えると、経営計画(戦略)の良質性の有無は除き、「労働提供と支払賃金との間の交換ルール」において、企業はどのように生産性を高めていきたかというと、年功的マネジメントであっても業績は上がる場合もあるし、成果主義をとっても業績は下がる場合もあるという結論に至る。あるいは私が重点的に取り組んでいる研究テーマの題材である「集団間の競争」を巧みに組み込んで競争と非競争のバランスを絶妙にとってきたのがその成功のエッセンスだったかもしれない。
人事屋にとって悲しいことに、労働とその対価の賃金交換メカニズムだけでは、生産性の高低の因果関係を解き明かすことができないという事実もある。ただ、その構造を解き明かそうなどという傲慢さと距離を置きながらも、社会の現象の因果の関係をできる限り実証的に理解することができないかと謙虚に、誠実に、格闘し続けることが大切だと思う。
長期的・持続的な視点で、生産性が高い組織特有の仕組みはどこにあるのか、一方で生産性が改善されない組織には何が欠けているのか。実務を預かる人間にとって、可能な限り、論拠をともなって組織に適した処方性を描かねばならないのであるが、往々にして、その面倒な手順を踏むことを避け、社会に流布される刺激的な出来合いの処方をしてしまう。そうすると症状に適合せず職場の静かなる痛いしっぺ返しをくらうことになる。
あのピトロッホリーのペンキを塗る職人の労働の現場を思い返すと、生産性が高いのか否かという視点を超えて、明らかに労働を楽しんでいる事実があった。先述したインクルージョンが働く仲間の中で機能していた。仲間との協調と、上長の監視を離れ労働の主体性を働く現場にゆだねつつも、仕事に対する倫理観が保たれていることを感じさせる。こうしたメカニズムがマネジメントの要諦なのかと私にとっての人事政策のアイコンになっている。
思索 インクルージョンについて
インクルージョン(Inclusion)と同様な場面で使われる言葉に、ダイバーシティ(diversity)がある。ダイバーシティーは直訳すると多様性を示す。組織管理においては、多様な背景を有した人材を活かすことを指す。こうした多様な人材は、人種や国籍、性別、性格、学歴など、幅広い整理や定義がされています。インクルージョンとは、そうした多様な拝見を有した人たちに有効的に就業機会を適用していくという意味で使われる。
設問1
あなたはどのように「仕事や職業」について考えていますか。現時点での考えを言葉にしてみてくだい。これから新しく仕事を探そうとする方は、幼少時代からの仕事に関してどのような体験をしてきたか、また小学校、中学校時代どんな職業に憧れていたか考えてください。そして、どうしてそのような職業を憧れたのでしょうか。
設問2
これからの仕事や職業を選ぶ上で、また仕事を行う上で、あなたが大切だと考える項目を優先度の高い順番に5項目上げてください。また、どうしてそのように考えたかについての理由を言葉にしてください。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2024年9月27日 竹内上人
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