目白からの便り

中小企業の人的資本経営について その4

副題:集団間の健全な競争と集団内の相互扶助の協調のメカニズム

私は毎年、正月休みの時に箱根駅伝をテレビで観戦する。正式には、東京箱根間往復大学駅伝競走(関東学生陸上競技連盟が主催)と称される。2024年は、100回の節目の大会で、記念大会として全国の大学に門戸が開放された。今大会だけだったのが残念なのだが、対象が広がると大学間の競争関係も多様性と流動性が加わり刺激的で楽しみが増す。従来の地域とは異なる新しく多様な選手やチームの参加は、新たなイノベーションをこの大会にもたらし、個体成長の起点となるだろう。健全で良質で、納得性のある集団間の競争の広がりと深さがもたらす価値は意義深い。異なる結合が新しい価値であるインベーションを誘引する。経済学者のシュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)は、『経済発展の理論』(1912)で、イノベーションを新結合(neue Kombination)」と表現した。良質な異質なものを結合することによって、新しい変化が促され、貴重な価値に昇華する。競争という概念は、優劣を競い合う過程での成長だけでなく、新しい組合せによる価値創造の試行実験でもあるのだ。

集団間の競争とビジネスアスリート(Business Athletes) 「職業競技者」について

ビジネスアスリート(Business Athletes) と言う言葉を数年前から考え続けている。仕事を通じ「働く人」の視点と「経営者」の視点の相互理解の一致点としての概念として最も適切な言葉を探し続け、この言葉にたどり着いた。言葉の意味するところを直接的に訳すのであれば、「職業競技者」となる。今年も駅伝競走の中継を観ながらその思いはいっそう深まる。陸上競技、特に長距離走を目指す関東の大学生にとって箱根駅伝は大きな舞台である。この日に向けて練習を積み上げる。そこには強固なトレーニングだけではなく精神的な練達や身体的な鍛錬が求められる。それと同時に集団としての凝縮性が堅牢になり、チームメイト間の「切磋琢磨による健全な競い合い」や「友愛に満ちた相互の励ましと援助」によりチームとしての純度が高まる。試合に向けて普段から仲間を気遣い、自らを律し、鍛錬し、次の学年への継承(技術や知見)に心を配る。チーム全員が全員戦力化されるのである(2021,守島)。その姿に卓越した企業人・組織人としての職業意識が重なる。

中小企業は、その規模感から集団としての凝縮性に利点がある。一つのチームとしてビジネスという競技場で競い合う感覚を持たせやすい。経営者はその優れた演出を脚本すべきである。少し規模が大きければ、小さく分離して競い合わせてみればいい。集団としての健全な競争は決して暗いものではなく、スポーツに似た感覚を職場に醸し出す。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2024年3月8日  竹内上人

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※現在連載中のコラムは、今年3月に発行予定の中部産業連盟機関紙『プログレス』寄稿文の原文
(今回のコラム全編での参考文献)
その1
石田光男『仕事の社会科学』(ミネルヴァ書房)2003年
その2
今野浩一郎『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)2021年
竹内倫和『自律的キャリア形成態度と職務探索行動結果に関する因果モデル』(商学集志)2020年
その3
江夏幾多郎 『人事評価やその公正性が時間展望に与える影響:個人特性の変動性についての経験的検討』組織科学 V ol.56 No. 1 : 33-48 (2022年)
その4
守島基博『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発 』(日本経済新聞出版)2021年

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