キャリアの作り方

中小企業の人的資本経営について その8

副題:可視化 掲示物の放す価値の再認識と積極的活用

仕事であれ、試験勉強であれ、取り組んでいることの可視化は、人間の動機喚起や継続にポジティブな影響を与える。健康維持の為に取り組むウォーキングの状況や、ゴルフのスコア、贔屓(ひいき)にしているスポーツチームや、相撲の白星・黒星などの取組勝敗表なども同様である。そうしたグラフであったり、歩数やスコアの推移などをビジュアルで確認すると反省もしたり、今日も頑張ろうと励まされたりする。部屋の壁や冷蔵庫にそのグラフや統計表が貼ってあれば、日常生活の中で目に留まり、そのたび、刺激を受ける。家族のあたたかい励ましを得られるかもしれない。

かつて、品質改善活動を機軸においた小集団活動;QCサークル(Quality Control Cercle)の成果の開示として、日本の製造業の現場には極めて巧みな「掲示物」が張られていた。QCD(品質・コスト・納期)への絶え間ない取り組みが日本の現場の生産性をゆるぎないものとしてきた。工場内や社員食堂に掲示されている様々な「掲示物」には、職場工程ラインごとの歩留まり率や改善件数の実績推移、合理化効果のコストダウン額の寄与度など、本当に工夫された「掲示物」が張られていた。これが作業チームや工程単位での競争意識を鼓舞するかの様に描かれている。これが日本のモノづくりの現場の優れた生産性と、品質向上のマジックなのだと感じる。成果の認知プロセスを個人からチームへバランスよく配分することにより、組織としての良質な情報の交流とチームとしての一体感を促す。

職場の仲間で就業後に集まり、時にはお菓子などもほおばりながらワイワイ,がやがや作成する掲示物であるが、単に『見せかけの掲示物』と『苦労の積み重ねによる掲示物』とでは、その輝きと衝撃度に圧倒的な差異を放つ。査定や昇格・昇進という個人評価の反映物としての個別的動機付けも大切であるが、働く仲間と工夫して、所属するチームの価値を高めていくことを認知する試みは、職場の秩序や倫理観、優れた組織活性化の原動力になる。また、職場ごとに切磋琢磨することは、集団間では競争が発生するが、集団内ではメンバーを助け合うという協調行動が自然に促される。

心理的安全性:Psychological Safety (Edmondson 1999)という機能は、管理者個人の資質評価に起因するだけでなく、集団のメカニズムとも深い関係がある。そして、工場長や管理職のやるべきことは、そうした「掲示物」の前を通る時には、常に立ち止まり、思慮深い表情をしながら真剣に掲示物から何かを読み解こうとする所作を欠かさないことだ。もし偶然にもその掲示物の関係者いれば、呼び止め、その掲示物について、にこやかに、そして、熱心に質問することである。その風景は、鮮明に働く人の脳裏に刻印され、よりよい活動の成果に向けての励ましになる。それゆえ、掲示物は食堂や、談話室など、人々が交流するにぎやかな場所に張られるのが最適である。個人の競争を促す仕組みも大切だが、集団としての競争を支える仕組みも人的資本経営には欠かせない。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2024年4月19日  竹内上人

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※現在連載中のコラムは、今年3月に発行された中部産業連盟機関紙『プログレス』寄稿文の原文
(今回のコラム全編での参考文献)

その8の参考文献
Amy Edmondson Psychological safety and learning behavior in work teams
Administrative science quarterly 1999

その1からその7までの参考文献
石田光男『仕事の社会科学』(ミネルヴァ書房)2003年
今野浩一郎『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)2021年
竹内倫和『自律的キャリア形成態度と職務探索行動結果に関する因果モデル』(商学集志)2020年
江夏幾多郎 『人事評価やその公正性が時間展望に与える影響:個人特性の変動性についての経験的検討』組織科学 V ol.56 No. 1 : 33-48 (2022年)
守島基博『全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発 』(日本経済新聞出版)2021年
城山三郎『官僚たちの夏』(新潮社、1975年)。
伊丹敬之『イノベーションを興す』(日本経済新聞出版社 2009年)
米山 茂美『リ・イノベーション視点転換の経営: 知識・資源の再起動』(日経BP日本経済新聞出版本部)2020年
藤原雅俊『生産技術の事業間転用による事業内技術転換』(日本経営学会誌)2022年

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