目白からの便り

伝統的な人事システムからのダイナミックな転換の近道にある中小企業 その2

先週のコラムでは留学生の就労意識について触れた。同様に日本人学生が中心の講義でも、「終身雇用的な労働慣行」、「年功的な給与体系(職能給)」、「企業別組合」といった日本的経営と位置付けられる企業・組織か、その反対側に位置する企業・組織のどちらを就職先として選択したいかという設問をしたことがある。結果は、70%の日本学生が後者を選んだ。男子学生も、女子学生も同じような傾向である。

外国人のみならず、日本の若年層においても主流となる日本企業における人事システムでは、彼らのモチベーションリソースを満たすことができず、長く勤めるにはあまりにも組織が同質化しすぎていて、居心地がよくないと映るのであろう。

日本は今後少子高齢化が進み圧倒的に若年労働力が不足する。要員不足を定年延長で補い高齢化した要員構造では、グローバル競争で諸外国の活力ある企業と対峙していくのは至難の業だ。特に日本の産業構造の中で主力の中堅・中小企業では問題は深刻である。今後15年から20年の時間軸では、限界集落のような若年層が極端に少なくなる限界企業の領域に突入することが要員構造のシミュレーションから予測できる。個別企業によって、その人的資源の構造変化のスピードにはばらつきがあるものの傾向は同じシナリオを歩みそうである。いつまで持ちこたえられることができるのか、経営者の最も重大な関心事である。そして、経営者はこのシナリオの先行きを事務方に丸投げしない方がよいと思う。現在の人事を担当する管理者に今後20年の時間軸で責任を求めることはリアリティに欠けてしまう。

かつて、欧州での第一次世界大戦の時に男性は戦地に送られることで、職場の要員不足が決定的になった。その時に女性が急激に職場に入り、女性の雇用機会が急速に拡大した。(飯田,1977)女性活用は構造的な労働力不足から支えられた。労働における希薄化現象(Dilution)が起きたのであるが、それと同時に職務の標準化やマニュアル化も急速に進んだのであろう。日本の雇用市場は、男性女性も含めて総就労人口自体が経済規模と比較して圧倒的に不足する。年金の保険財政を支えるという視点でその緊急度は一層深刻になる。その解決策は、高度に教育された良質な多国籍人材を企業の組織の内部に取り込むことである。あるいは彼らを取り込めるだけの就労環境を仕組みや、職場の仲間の良質な交流(コミュニ—ケーション)能力を高めることで整えていくことである。

大企業は、優秀な人材を新卒採用市場でも優位的に確保できるので切迫感は低い。中堅・中小企業は、そこがチャンスでもある。対外的な金利差だけでなく、貿易収支における需給バランスの変化により、為替相場は今後一層多国籍人材を吸収する誘因環境は弱まるかもしれないが、人的資源の絶対量を確保する上で、早く組織内部の様々な環境を多様化・多国籍化に対応できるようにしていくことが肝要である。必ず良質な外国人が吸い寄せられる。必ず世間に出るに出られず悶々としていたジョブマイノリティーの方々を刺激し、引き寄せられる。多様化雇用に柔軟な仕組みが出来上がれば、しめたものである。新卒一括採用などという硬直した人事制度の弊害も低減し、海外に流出した日本人学生にも魅力的な存在になるだろう。ピンチにたっている中堅・中小企業は、将来の危機意識を肯定的に捉えることにより、大企業よりグローバルで多様な人材獲得競争で優位に立つ。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年11月3日  竹内上人

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