目白からの便り

Cooperative Career 持たざる者の生き残り戦略 キャリアの共同利用の戦略的価値 その1/3

副題:市場における競争的に弱い立場にいる企業や個人が取るべき戦略

長女は就活を終え、来春から民間企業に就職する。その企業は主として地方都市における中小規模のスーパーの共同購買の仕組みを支える組織である。長野県にも佐久、軽井沢地方に拠点をおく商品陳列がと品ぞろえに定評がある中堅のスーパーがあり、こうしたスーパーの商品棚にもいくつかの商品が並ぶ。製造元をよく観察すると大手の食品メーカーのブランドであることが興味深い。パッケージはこの共同ブランドで描かれているのであるが、製造元は強い自社ブランドを食品市場に提供している大手食品会社である。

全国展開する大手のスーパーであれば独自のプライベートブランドを有して比較的価格が廉価で品質が高い食品を提供することは可能であるが、地方都市の中堅のスーパーマーケットが独自のプライベートブランドを持ち、商品ラインアップを充実させることは資金的にも流通量的にも収支のバランスが合わないのであろう。普段、スーパーに並ぶ食材に関して、あまり関心がなく購入していたが、父親として少しこのビジネスモデルの仕組みに興味を持つようになり、プライベートブランドに目がいくようになった。商品パッケージの裏側に記載されている製造業者や販売業者を観察は興味深いものである。

研究事例でも、中小企業の共同事業における商業的成功確率を高める要因として、1)販売の共同化を行っていること、2)過去も共同研究開発の経験があること、3)プロジェクトの長期継続、4)取引先の参加、5)顧客からの情報提供・助言と顧客による購入の見込み、6)大学や公的研究機関と連携しないこと、7)公的な補助金を受けないこと、8)実際の任務に応じた費用負担、といく調査がある。(岡室, 2003)。上記項目でいくと、項目1と項目4、そして項目5が前述したビジネスモデルの形態に該当する。共通していることは、「顧客」という概念の共有化であり、関連する情報の共有化であるのであろう。つまり取引の相手を起点に参画型で組織化するということである。自らを取り巻く競争的環境において劣勢であるならば、一人だけで戦うということに拘らず、仲間を募ることが肝要である。利害関係が共通化する限定的なネットワークの資源(カスタマイズされたオープンネットワークの経営資源)を通じて、相互利用することは極めて経営的である。

こうした時に心がけなければならないことがある。それはナラティブ(物語)に整理することだ。自社や自己がどのような存在であるか物語的に語ることができなければ、連続性の有る自分のもっている特徴を発掘できないであろうし、他に伝えることもできない。キャリア理論でナラティブキャリア(マーク・L・サビカス)が大切にされる一つの理由でもある。環境変化に向き合う中で、物語的な連続性のある価値形成において、自社や自己の知識や資源を効率的且つ創造的に再起動するために取り組むことは優れたリ・イノベーション戦略で、これは今まで積み上げてきたものを覚醒させ、再動員させ、新たな価値を再構築させる。(米山,2020) そして、それらを相互に共同的に活用することによって、生み出された価値の増大に拍車がかり、経営資源の有機的な連鎖につながる。

また、別の視点でこの研究事例を観察するととても興味深いものがある。それは、項目6と項目7である。大学などの研究機関の意見を聞きすぎないことと、補助金のような非自立的なメカニズムに入ることを避け、自主自立の精神で事業と向き合うことが商業的成功の重要な要因であるという結果である。他力に依存することで、思考が空洞化し、行動が受動的且つ制約的になるということなのである。

このことは、経営者もキャリアの主体者も十分身に染みて感じ取らなければならない客観的事実かと思う。他に大きく依存する構造は、企業経営であれ、個々人のキャリア形成であれ、自ら切り開いていく原動力を欠いてしまう。周囲のあらゆる環境をそれが自社・自己にとって逆風になることであっても、肯定的に受け止め、忍耐し、小さな萌芽の段階のことでも過去の成功体験との比較をせず、新しい可能性に向けてのエネルギーを欠かさないようにすることが大切である。他に依存する場合は、ROI(投資対効果)の感覚を身銭感覚でもち、その恩恵を感謝して取り扱い、その成果や果実を自社や自己に限定せず、広く社会や他者に還元・奉仕する目標を忘れないようにすることだ。そうすれば、そうした企業や人から発動される言葉や所作は多くの人を勇気づけ、そして人を引き付ける。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2023年12月1日  竹内上人

【文中参考文献】
中小企業の共同事業の成功要因:組織・契約構造の影響に関する分析 岡室博之 (商工金融,2003.1)
リ・イノベーション視点転換の経営 米山茂美(日本経済新聞社 2020)
中小企業における戦略的連携の創造的方法 内本博行 (流通經濟大學論集, 2016 Vol51. No.3)
人本主義企業 : 変わる経営変わらぬ原理 伊丹敬之 (筑摩書房 1987)

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