目白からの便り

働くことの意義 モチベーションの源泉

かねてから一度このコラムで取り上げたいと思っていた物語があった。 その物語は戦後70年を節目としてTV放送された広島の路面電車の話である。路面列車は、8月9日に多くの人の努力と、市民の期待を背負って、原爆投下後、わずか3日後に市内を走った。この物語は「原爆に遭った少女の話」として、さすらいのカナブンさんの原作の漫画に基づきNHK広島放送局が被爆70年の2015年に「一番電車が走った」のタイトルでドラマ化された。阿部寛さんと黒島結菜さんが主演していた。

私がなぜこの物語に関心を思ったかというと、原爆投下 3日後に荒廃した焼け野原で、生命の維持すら危うい状況下で、自らの職務を果たし続けようとした働き手の熱意の源泉はどこにあったのかということである。 会社の上司からの指示や方針もあったと思う。ただ混沌とした環境下で、その使命を果たそうとする働き手の意思と行動がなければ到底実現は出来ないことは容易に推測できる。しかも昭和20年、戦況が厳しくなる中、戦地に徴兵される男性職員に代わり実際にこの路面電車を運行していたのは運転手も車掌も市内の家政学校の女子学生であった。

直面しているコロナ禍の中で、エッセンシャルワーカーという言葉を知るようになった。生活維持に欠かせない職業従事者の方を示す。このコラムでも過去、何度か取り上げた記憶がある。仕事と言うものが相互関連を持っている以上、その強弱はあるにしても、すべての職業に就くものがエッセンシャルワーカーの枠組みの中にあるということを書いた覚えがある。大切なことは、働き手が就業する職業が社会にとって、他者に対して、どのような貢献を果たしているかを自分の中で深く考えて仕事ができているかどうかということであり、経営者や管理監督者はその意義をメンバーに共有する責任があるということである。 人は労働の対価としての報酬に自分の労働力を提供するのだが、人間の心理として、報酬だけで働くわけでもないということを日常的に意識しなければならないと思う。経営者自らへの問いかけと、その働き手への敬意と想いが、組織内の秩序やたたずまい、倫理観を良質なものに変えていく。

広島電鉄のホームページを見ると、今日も当時の被爆した路面電車を走らせるという案内が以下のように掲載されていた。
『被爆電車特別運行プロジェクトは、被爆70年プロジェクトの一環として2015年にスタートし、今年で7年目を迎えます。被爆75年の節目となった昨年・2020年は、コロナ禍のため一般の乗車体験を見送りましたが、被爆電車「653号」が広島市内を走行する模様や、車窓からの広島の平和な光景をライブ配信するという新たな取り組みを実施しました。今年も、一般の乗車体験を再開する方向で検討を進めておりましたが、コロナウイルスの感染拡大が終息に至らないことから、参加者の皆さまに安全に乗車体験をしていただくことは困難であると判断し、昨年に続いて一般参加者の乗車体験は中止することとしました。しかし昨年同様、このコロナ禍だからこそ、被爆の惨禍から復活を遂げた「653号」を運行し、その模様を国内外に向けて配信することで、広島から「平和」と「勇気」を発信いたします。』

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年8月6日  竹内上人

関連記事

新着コラム

  1. クリスマスに思うこと 大丈夫、もう少し時間がある

  2. 障害者のキャリアデザインの環境設計 特例子会社をどう育てるか

  3. 障害者のキャリアデザインの必要性と責任主体

PAGE TOP