目白からの便り

女性の就労意識の可能性 ピグマリオン効果を克服して

大学のキャリアデザインの講義で「ワークライフバランス」を考える演習課題を出した。演習に先立って、教材として15分程度の映画教材を鑑賞した。取り上げた映画教材は『プーと大人になった僕』(原題:Christopher Robin.2018)である。この物語の中で主人公であるクリストファーロビンは旅行鞄事業部の責任者であった。しかし、戦争後の大変な経済混乱期において需要が低迷し、経営的な不振に直面していた。そのための合理化施策を行うために週末を会議でつぶさないといけないという指示を上司からもらったのである。この週末にあたる日は家族との旅行の予定と重なっている。彼は悩んだ末、仕事を選び、週末の旅行は妻のイブリンと娘のマデリンの2人だけの淋しいものになる。

週末の予定を家族との時間に費やすか、急に差し迫った仕事上の時間に費やすかの選択は、現実社会においても日常的にある。この教材を見た後に、少人数の演習をいくつかの演習課題とともに行ったのだが最後に全体で、次のような問いかけをしてみた。「あなたがクリストファーロビンであったら、仕事を選ぶか週末との約束された家族との時間を選ぶかどちらですか」。当日のこのクラスの履修生は、女子学生が34名、男子学生が32名の合計66名であった。結果はとても興味深いものとなった。仕事を選んだ人数は女子学生が27人、男子学生が20人、家族との週末の旅行を選んだ学生は女子学生が7人で男子学生が12名である。仕事を選んだ比率は男子学生が20%に対して、女子学生は63%であった。比率で女子学生が圧倒的多数で仕事を選んだのである。

企業人事の集まりで新卒採用の話になると多くの採用担当の経験を持つ人事経験者は共通して新卒採用の選考プロセスにおいては女子学生の方が優秀であると評価している印象が強い。男子学生が子供っぽく感じ、その反対に女子学生の応募者はとてもしっかりした印象を持つのでさる。

ピグマリオン効果(Rosenthal, R. & Jacobson, L. 1968)*1という概念があるこれは教育現場の実験結果ではある。この潜在的成長の可能性を生徒に伝え、期待も持てば持つほど生徒の学力が上がっていくという結果である。このことは、一般の指導を求める組織集団においては同様の効果が期待されるのであろう。

日本の民間企業における女性管理職比率は諸外国に比べて極端に低い。2025年の統計結果*2においても日本は、14.6%で、G7(先進7カ国)の平均値32.5%前後と比較しても極端に低い。しかも日本の場合、問題は更に深刻で、大企業で抽出すると、その比率は平均8.3%の水準に留まる。

女性の管理職の登用に関して、育児や出産を経た女性が職場で「昇進や責任ある仕事を任されにくくなる」といったマミートラック(Felice Schwar.1988)*3と呼ばれる就業における「期待値の低下」という影響に代表されるように、構造的な問題を私達に提起する。この構造をピグマリオン効果だけを取り上げることには危険性があるが、人事制度のハード的な側面ではなくソフト的な面がこうした現状に影響することも考えると、現行管理職や経営層の女性就労者に対する意識変革の必要性を深く考えなければならないという危機感を持つ。日本の総理大臣も憲政史上初めて女性が選出される見込みでもある。優秀な潜在能力をもった女性の活用の機会の最大化を日本の企業は積極的に推進すべきである。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2025年10月10日

*1 Pygmalion in the Classroom: Teacher Expectation and Pupils’ Intellectual Development:「教師の期待が児童の学力向上に影響を与えることを示した、ピグマリオン効果の原点と称せられる論文」
*2 データブック国際労働比較2025 労働政策研究・研修機構 (JILPT)
*3 Felice Schwartz “Management Women and the New Facts of Life”(1988 Harvard Business Review)
フェリス・シュワルツが1988年に提案した「マミートラック」の原型は、決して差別や排除を意図したものではなく、女性の多様な働き方に対応するための柔軟な制度設計を企業に促すものだったが、その後、本人の意志や能力に関係なく、昇進や挑戦の機会を奪う批判的なニュアンスになる言葉に変容した。

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