リーダーがチームを構成する時にその人選に悩む場面がしばしばある。どのような人材を組織の内外からメンバーに迎い入れ、誰をどのような役割に配置すべきかは個々人の問題を超えて、組織が人の集合体である以上、その個性が異なる人と人との組み合わせも重要な要素となる。
教会で子供の礼拝の説教を依頼された場面で印象に残っている風景がある。その個所は新約聖書のマタイの福音書 第4章18節から22節の箇所であった。『イエスは、ガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、二人の兄弟、ペトロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレが、湖で網を打っているのを御覧になった。彼らは漁師だった。 イエスは、「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしよう」と言われた。 二人はすぐに網を捨てて従った。』
話の流れはシンプルでイエスがガリア湖の通りを歩いている時に網を使って魚をとっていた4人の漁師を弟子に招いたと言う話である。現代風に言葉を置き換えるのであれば、「転職してみたら、きっと君たちにとって大切なキャリアがあるよ」と、リクルーティング活動をしたようなものである。聖書の視点で言うと、宣教の弟子として福音を伝えるために、教会での学びや宣教の経験でなく全く関係のない漁師を自分の弟子にしたところにその特異性がある。
組織変革をしなければならない時に、人材をあえて、同じ系統の枠組みの外から確保する必要もある。そうすることで新たな市場や層にアクセスでき、組織に異質な思想を加えることによって変化を促し、組織内の軋轢を意図的に起こし、溶解と凝固を繰り返すことによって組織が堅牢になる。リーダーが自分に課せられたプロジェクトのメンバーを選出する際、一般的にはプロジェクトを早く立ち上げ、お客様や想定される利害関係者の信頼を得るためにその職務を達成するのに最も有効な知識と豊富な経験を持った人を選出するのが組織作りの常套手段であろう
集団における活動の成果を考える時に果たしてそうした論理的に辻褄があった人選プロセスが必ずしも正解であるとは言えない現実場面に直面する。環境変化が激しく社会システムが流動的な条件下に置かれた時、既存の枠組みの中でメンバーを構成するよりも新たな可能性を創出するために異なる経験や鍛錬を経てきた人を採用した方が今までの保守的な固定概念を超えて、柔軟に環境適応できる集団を構成できるかもしれない。
また能力や経験よりも、人間性に主眼を置いて集団を構成したほうが結果的に集団の中でのコミュニケーションが良質になり集団の生産性が上がることも真実でもある。リーダーにとっても、また機会を与えられたメンバーにとっても異質な世界での経験は新しい価値観の創出と人間的成長をきっともたらしてくれる。
先の新約聖書の箇所は、その可能性にイエスは自分の宣教というプロジェクトメンバーのリクルーティング活動に主眼を置いたのかもしれない。概念的には漁師と言う職業は人との関わりは少ないかもしれないが、明らかに大量の魚を捕獲する経験を積み重ねてきている。魚ではなく人にその資質を活用することを考えれば、イエスのとった人選の基準は誤りではないのかもしれない。リーダーシップを発揮し続ける時には、既存の枠組みや伝統的な慣習だけで考えるのではなく経験よりも可能性をより大切にした方が良いこともある。そして、リーダーはその場面をできる限りスムーズに進めるために既存の組織の許容度を高める組織内部のコミュニケーションと信頼関係づくりに尽力しなければならない。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2023年5月26日 竹内上人