目白からの便り

障がい者雇用 企業の枠組みを超えた仕事と雇用の循環モデルの環境づくり

『最後に若干提言を書き加えてみたい。現在障害者個人が個々自立して企業で活や組織で活躍することがノーマライゼーションの観点からいって最も大切なことは周知のことである。しかしながら重度の障害を持っている方全員にこれを求めていることは非常に難しいと思う。最近各地域に障害者の経営や支援者の方々が中心となって障害者の生活面もケアできる作業施設設立の動きが盛んになってきた。しかしながら経営的に事業展開するのは非常に難しい現実もある。こういった施設に対して官庁や民間企業が業務発注すれば発注元の雇用率にカウント出来るような仕組みが法的に整備できないであろうか。そういった作業施設では、仕事がないことが障害者本人や支える人々にとって最もつらいことであるからである』 平成9年(1997年)8月発行の「障害者と共に働く 提言・体験手記」 日本障害者雇用促進協会からの抜粋。私が34歳の時の手記である。障がい者の雇用と関わったのは、今から30年前で、前職の人事部で障がい者雇用の担当になった時からである。

先週の土曜日、長野県松本市内にある知的障害者を中心に雇用している事業所を訪問した。単純化された工程で、それぞれ分担された持ち場に就いたメンバーが、躍動感と楽しさに満ちた表情で仕事に取り組んでいる。その風景に、前述した提言レポートのきっかけとなった前職の特例子会社で経験したクリーニング工場での記憶が鮮明に蘇る。一般的なリネンや衣類などのクリーニングではなく、精密工場で使用する防塵コートをクリーンルーム内で純水で洗濯をし、丁寧に折りたたみ、それを密封されたパックに梱包し出荷していくのだが、その職場でもものすごい勢いで作業に向き合っていた。単調さに飽きてくると、メンバーが歌い始めて作業がまたリズミカルになる。メンバーにとって労働は楽しい場なのだ。私にとっては働く現場の異次元空間を体験した衝撃の職場であった。事業所見学の後、代表の方とお話していると、現在、 障害者雇用に関して、単一企業の枠組みを超えた環境の設立に向けてさまざまな検討がされているということを伺った。令和6年には、企業の枠組みを超えた障害者雇用率の算定の可能性について道が拓けるのではないかとのこと。 この代表の方も、生前、障害者雇用にご尽力されたヤマト運輸の小倉昌男さんの影響を強く受けておられた。

様々な障がい者雇用の就労環境づくりをする中で、社会的な環境として、企業内部にある「仕事」を障がい者雇用施設に循環するためのインフラの構築とその雇用創出の為に企業が外部に仕事を循環させた貢献度を法的(障がい者法定雇用率)に換算保証する法改正の必要性を感じた。多くの小規模障がい者雇用施設がある一方で、必ずしも潤沢で安定した条件の業務の機会に恵まれていない施設も多い。一方で、大企業を除き、単独の中堅・中小企業が障がい者雇用に直接的に取り組むことにも困難や限界がある。仕事と雇用を結びつける仲介のインフラが必要だと感じた。

くたびれかけた先の提言レポートの書籍は今も本棚にある。何度も開くので、綴りひもがほどけてしまって、ページが散在しそうな状態になっている。そして、30年たってもその言葉の実現に向けての最初の一歩が踏み出せない心もとなさも残る。多くのキャリアを考える方や企業人事の方との接点がある現在のビジネスにおいても、お会いする方と機会があれば、この構想を話題に出す。出しながらも言葉だけで実行が伴わない焦りだけが積みあがる。転職を希望する方に、私自身の相談事を持ち掛けられても困るであろう。ただ、その構想の想いの糸は切れずに今日まできた。

障害者雇用推進で苦労していた在職中、人事部の上司から、「竹内君、人は、何をしたかということではなく、何をしようとしてきたかということが大切なんだよ」という言葉を掛けられた。結果ももちろん大切だが、今日できることを精一杯することだと自らを鼓舞する。この言葉、その後発見したのだが、高倉健さんの言葉であった。上司も高倉健さんの言葉に励まし続けられながら仕事をしていたのだと微笑む。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年11月25日  竹内上人

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