目白からの便り

約束を守る

4月は、企業研修で、今年入社した新入社員への講話をする機会も多い。これから、働き手として活躍する若い方たちに何を伝えたらいいか、その最初のメッセージの中心を何にするかは、自分で考えている以上に新入社員にとっては重要なのかと思う。それはかつて、遠い昔、私が入社式の後に伝えていた言葉を今でも覚えているという方に会うことがあるからだ。今年は、「約束を守る」という言葉を自分の思考の棚の中から引き出した。

今から20年ほど前、前職で人事課長をしていた当時、会長(故人)と同行し、様々な講演会の現場に出向いた。当時は長野県経営者協会の会長もされていたので、経営に関する講演を依頼されることが多かった。講演に先立ち事務方として指示を受けながら資料の準備をした。私にとって、経営を担う方の想いに直接触れる貴重な経験でもあった。

講演で使用するスライドの用意で指示された中に「信頼経営」という表題と企業が責任を果たすべき対象としての相手、所謂ステークホルダーに企業が果たすべき役割についてのシートが必ず差し込まれていた。会長からは、企業を取り囲むように「顧客」、「従業員」、「パートナー(取引先)」、「投資家」、「社会」の5つのステークホルダーを描くように指示された。講演では、長い経営実践の中で実例を交えて丁寧にそれぞれの利害関係者に果たすべき責任について先の順番で話された。彼にとってはこの順番も大切な価値観であった。講演の最後には、企業はこれらの方々との「約束を守る」ということが最も大切であることを伝えられた。

法律、ルール、契約などの経営活動の仕組みの中で定められた遵守事項だけでなく、企業が示した目標や理念で定められた事柄や規範はすべて第三者に対する約束であり、その約束を守ることが経営にとって最も大切なことであるのだと。他者や自己に対する「約束」を守りぬく思いの強さを演壇のそででスライド操作をしながら感じていた。「約束を守る」とは、難解な経営論理ではなく、極めて簡素な言葉であるだけに脳裏の奥底に今も沈殿している。

大先輩の長い経営経験に基づいて語られる、「約束を守る」という言葉と、伝承者として発する言葉では、その質感に雲泥の差を感じるが、それでも自分の中で深く沈殿している事実を伝えていくことには意味もあるのだと新入社員にもその言葉を当時の自分の受けた印象を光景とともに伝えている。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2022年4月22日  竹内上人

 

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