目白からの便り

等身大のことを続ける

早朝の名古屋の空は、薄いかすれた雲が点在していている。今日も予期せぬ瞬間的な豪雨を案じながらも、日中は夏の暑さを予感する。

ある方と雑談をしていた時、何かの拍子で、宮沢賢治の話になる。「雨ニモ負ケズ」という散文が好きだという。コロナ禍で不自由を感じる時間が長く、思うように経営のかじ取りができない今、その言葉が身に染みると。私も数年前、この梅雨の時期に彼の生家のある花巻へ小旅行をしたことがある。

『雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク
決シテ瞋ラズ(怒らず) イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ 野原ノ松ノ林ノ陰ノ小サナ萓ブキノ小屋ニヰテ・・・』 と

特に、その温かみがあり、思慮深い言葉の流れの中で、私が心を引き付けられるのは、後半である。
『・・・東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイイトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ  ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ ミンナニデクノボートヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ』

30年以上経験した企業の人事の仕事を離れ、現在の職業に就き、キャリアにおいて節目と向き合っている多くの方と会う。思うようにならない就活中の学生、定年の節目を見据え自身の身に処し方に戸惑っているシニアな方、上司や同僚との関係に心身をすり減らしている方など、深刻な場面に直面している方も多い。自身の力量不足にその窮地を救い出すことができずにいるが、そうした時に私もこの宮沢賢治の言葉が私も脳裏を静かによぎるのである。この散文は小さな手帳に数ページにわたり、丁寧にという感じの文字ではなく、気持ちに任せてという勢いのある文字で書かれている。

自分でできることは限られている。限られている中で、できるだけのことをする。以前もこのコラムで「できない中で、できることをする」ことに触れた。宮沢賢治のこの散文は、弱弱しいが、底知れぬ強さと勇気を与えてくれる。等身大以上のことは、いつかほころびが生じるが、等身大のことは愚直にやり続けたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年7月16日  竹内上人

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