人事制度の見直しの中で人事担当者が思案している領域の一つに定年制に関する課題がある。現在60歳での定年、65歳までの継続再雇用方式の企業が一般的である。今年の2021年4月から適用される改正高齢者雇用安定法(通称70歳就業法)では、その年齢が現行の65歳から70歳までに延長される。シナリオが動き出す。働き手にとっては、生涯キャリアを長く充実していくという積極的な側面と、年金支給などの社会保障のとの兼ね合いで経済的自立の期間が長くなるのではという不安とが交差する。
長く働くこと、働けることは、医療や健康管理の質的向上から前向きな環境変化で歓迎されるべきものであるが、雇用制度と賃金体系の根幹が、実質的に年功ベースで賃金額が上昇する職能給的な色彩を残す多くの日本企業にとっては、50歳以降の賃金設計においてその延長分だけ悩みは多くなる。総額人件費の配分設計を職務遂行能力の兼ね合いの中でどのように設計すれば、世代間の全体バランスと働く個々人のモチベーションと組織の活力を欠損せずに設計できるのか、人事担当者の言葉に詰まる場面に立ち会うことが多い。
大学の講座で、経営戦略の策定プロセスと個々人のキャリアの設計プロセスは、類似していることを重ねて説明することにしている。経営が一定のロジックで戦略の設計と展開シナリオを描き、その遂行のマネジメントサイクルを回すように、個々人のキャリアも同様にその設計プロセスにはロジックがあり、PDCAサイクルを回すことでは大きな隔たりが無いのだと伝える。その意味でキャリア設計はスキル(技能)でもある。人事の実務家の経験から、できるだけ若年時にその能力習得の必要性の意味の理解とスキルの訓練をできればと思う。
一方で現役世代の働き手にとって、働く期間が長期化すればするほど、環境変化に耐えうるキャリア設計力の力量が問われてくる。職業の選択を迫られる年齢に差し掛かる多くの中高年の方との会話の中で、組織における合理的で論理的な計画策定とその進捗管理能力の卓越性を持ちつつも、自らのキャリアのこととなるとあまりにも無頓着で、思考投資せず、定年に近い年齢になって初めて自らの身の処し方に戸惑ってしまっている方が多くいることに気づく。働く期間の長期化、雇用システムの流動化とグローバル化、働き方の選択肢の多様化の進展が現実味を帯びてきている中で、あらゆる年代で早急にキャリア設計に関する人材育成投資をすることが企業にとっても、働き手にとっても組織と個人の健全な成長を促す原動力となるのだと痛感する。そしてその両者のお互いへの気遣いの過程が良質で倫理観を伴う職場風土を構築できるのだと思う。組織も個人も挽回する時間的余裕はまだ十分ある。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2021年1月22日 竹内上人