目白からの便り

後継者の育成

早朝の都内は、雲一つない快晴となり、ビルの谷間から遠くの山脈まではっきり見通すことができる。気温も下がって、より空気中の透明度の純度も高まっているのであろう。高層ビルに反射する光も強い。

この時期、大学のEQの講座で紹介するいくつかの感情能力の中で自己の中での「利己を超え、他の為に大切な価値観」を持ち続けることの重要性の説明をする過程に入る。この段階になると私の講座も終盤戦になる。これは、直面する仕事や役割を将来に向けての価値創造につなげる感情能力でもある。良質な心持ち、取り組み姿勢は、時間を超えて人に良質な影響を与える。個人の都合を超えた責務を自らに課し、謙虚に実践し続ける姿が、人々に共感の念を与え、次の世代、後継となる者にとっての道筋を示す象徴的な存在になる。

このことを考える時に必ず思い出すエピソードがある。法隆寺の宮大工の棟梁である西岡常一氏(1908-1995)のことである。彼は、千年ももつ寺院の建物を修繕する大勢の宮大工を束ねる棟梁でもある。次の世代の宮大工にとって模範とされる責務を担う。多くの職工の尊敬と心を束ねていく力量が求められる。伝統的な技量を伝えていく重い役割を担う。職工たちの心の支えでもあり、理想として目指す姿でもある。若い職工は西岡棟梁を見習い日々の技量を鍛え、磨き上げてきたのであろう。

先日、伊勢の会社を訪問した機会に、久しぶりに伊勢神宮の内宮を参拝した。早朝6時頃、まだまだ暗い中での参拝である。伊勢で一緒に仕事をする社長とともに暗闇の中の参道を進む。伊勢神宮の社殿は、皇室の御祖先の守り神として仰ぐ天照大御神をお祭りする内宮と、少し離れたところに衣・食・住など産業の守り神としての外宮とに分かれている。この社殿の建築は20年に一度、1300年間繰り返し建築しなおされ続けられている。大切な神事であり、その古い社殿の木材は全国の神社の社殿に増改築用に送られ伊勢神宮とのつながりを支える。こうしたこととは別に、20年間で繰り返し同じ建物を建てることによって、建築の技法が次の世代に伝え、後継者を育てる仕組みとなっている。

ひとりのリーダーの後ろ姿から、職業の大切なエッセンスを伝承し後継者を育成すること、一定期間の繰り返しの作業を仕組み化することによって、後継者を育成すること、どちらも優れた後継者育成のメカニズムである。企業経営者の方にとって、家業を営む方にとって、後継者を育てていくことは、最も大切な経営課題であるが、古の建築の世界でも様々な工夫がされていることは、学ぶべき指針である。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年12月17日  竹内上人

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