目白からの便り

感受性の感度を保つことの大切さ

友人を訪ね昨夕より群馬県の草津に来ている。早朝の草津は暑い雲に覆われ、小雨が降り続く。宿の外へ出ると、昨夜からの雨で森全体を包む空気はしっとりとした湿度で身体を覆う。時折、白い霧に視界が遮断される。秋の気配を感じる冷気に包まれた朝となった。確実に季節は弛緩した身体を引き締めていく。前職の仕事を通じて知り合った企業の人事出身の友人は現在この草津の地で大型ホテルの責任者をしている。夕食をとりながら人のマネジメントの難しさと可能性について意見交換をする。

普段使用している連用日記に挟み込まれている切り抜きに目が留まる。その切り抜きは、7年前に事業を始めた時に掲載された地方新聞の「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイである。ちょうど、朝日新聞の「天声人語」のようなものである。「天声人語」であれ、日経新聞の「春秋」であれ、時々、気になるエッセイは、切り抜かれ手元に置くようにしている。そしてしばらくすると、いつしか自分の中で整理され外される。なぜかこの切り抜きだけ、創業した当時の自分自身のこれからの不安の余韻とともに役割を終えずそのまま残っている。

現在のオフィスは渋谷の表参道近くにあるが、友人は私が起業して間もない頃、その当時九段にあったオフィスを訪ねてくれている。起業して4年間ほど、出費をできる限り抑えるためにオフィスに寝袋と、前職の先輩から好意で譲り受けた登山用のテントを張って寝泊まりしながら、企業の枠組みを超えた横断的な人事のインフラの構築と中小規模企業の雇用基盤の強化を支援する仕組みができないものかと格闘していた。結局、今もその答えに行きつかないまま時間を積み重ねている。

先の切り抜きには以下の文字が綴られている『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

厚労省の平成27年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、54.6%に達する。この層では約40%が非正規雇用となる。絶対的水準が低いことに加え、雇用安定性も喪失している。このコロナ禍の中で雇用の実情はどのようになっているのかと思う。良質な雇用の創出と提供を行うメカニズムの構築の壁はすさまじく高いが、日常の営みや仕事を通じて、自分以外の人の痛みを感じられる感受性くらいは持ち続けたい。そのことが、前に進む選択を果敢にチャレンジする原動力となる。小さなチャレンジでも継続するときっと理解をしてくれる人の支えと突破口が見えてくるのであろう。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年9月25日  竹内上人

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