目白からの便り

キャリアアンカー(Career Anchor)

今週は寒さが戻り、風も強い日が多くあったが、今朝の都内は、雲一つない淡い水色に覆われている。高層ビルに反射する朝の光もその光量が一層強い。、

この数日、機会がありキャリア理論に関する勉強を続けている。その中で、エドガー・H・シャイン(Schein,E.H. 1928年- )のことを学びなおす機会があった。彼は、組織と個人の関係性を踏まえたキャリア発達理論や組織心理学の研究者として、人事の仕事に携わる者にとっては、何度か耳にするキャリア研究者の一人である。

シャインが提唱した理論の中で「キャリアアンカー(Career Anchor)」という概念がある。個人がキャリア上の選択や大切な判断や決断を迫られた時に、その選択や判断・決断の根底を形成する拠り所となる自己概念を示すものであり、その特性から8つに分類した。アンカーと命名された所以は、船が波や海流に流されないように錨(アンカー)を降ろしてその位置に停泊するように個人のキャリアにも様々な職業上の選択や判断・決断の根拠となる錨があるというものだ。その錨が人間に行動における原理原則を支える。
私たちを取り巻く様々な環境変化や人間関係において対処すべき課題に対して、こうした行動の原理原則となる拠り所がきちんと機能をしているか否かで、自分らしさを堅持して、環境や時流に流されず、周囲の雑音にも動じない存在感を示すことができる。そしてキャリア上の判断の適格性を保証する。

原理原則という言葉を代表する人物として、特に戦後処理から高度経済成長の初期にわたり活躍した白洲次郎という人物がいた。白洲氏は、戦後処理に吉田茂首相の側近として、GHQとの折衝に携わるのであるが、GHQ側からの印象は、「従順ならざる唯一の日本人」と称された人物である。特定の個人なので、人によって評価は様々なのであろうが、私の心情とすると、「格好の良い人物」の最右翼として位置づけられる。

白洲氏も物事の判断基準として彼自身の定めた原理原則を大切にしていた。時として、周囲の空気に迎合して、平凡なる日常生活を過ごす身からは、なかなか厳しい基準である。些細な日常生活の所作にもこの原理原則は息づくのであろう。日常の所作に配慮を欠いた弛緩した生活を続けていると、大切な判断の時にその実行が危ぶまれたりもする。

シャイン氏が提唱したキャリアアンカーの理論も、この原理原則と同じような概念として私の中には投影される。何故この仕事を選択したのか、仕事に対峙する時にどのような原理原則で立ち居ふるまうのか、仕事を通じてどのような価値を創造し、他に対して何で貢献するのか。仕事と生き方は切り分けられないところがあるし、連続した時間の流れの中で分断すると自己矛盾を起こす。できれば一貫した原理原則、流されないキャリアアンカーを意識して仕事や日常と向き合いたい。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

表参道にて 竹内上人

(補論)
白洲氏のキャリアアンカーは、シャイン氏の提唱した8つのキャリアアンカーの何に該当するかを思案したが、一つに絞り込めず、「起業家的創造性」、「自律・独立」、「純粋な挑戦」などを連想した。どうしても特定できず、キャリアアンカーを複数持つ者もあるのではという印象をもつ。
8つのキャリアアンカーは以下の通り、「専門・職能別コンピタンス」、「全般管理コンピタンス」、「保障・安定」、「起業家的創造性」、「自律・独立」、奉仕・社会貢献」、「純粋な挑戦」、「生活様式」。

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