目白からの便り

何もしなければ、何も起こらない

早朝の都内の空には雲がなく日中の快晴を予測できる。今日から11月が始まる。昨夜はキャリアに関係する講座に出席するために渋谷のスクランブル交差点から少し先のところにある建物を出て帰宅の途についた。ハロウィンでもあり、ニュース映像でよく流されるように渋谷のスクランブル交差点の周囲は若者の混雑と熱気に包まれていた。若い人たちがもっているその行き場を模索するあふれるばかりのエネルギーを感じる。

帰宅し、本箱の書籍やノート類を整理していたら半分に切り取られたノートの切れ端が出てきた。数年前、ある企業研修会のサポートをしていた時に、講演でお呼びした日本人の海洋冒険家の方の言葉のメモであった。その方は、ヨットで世界一周をするレースにチャレンジをしていた。しかも単独でどこの港にもよらない無寄港、無補給という厳しい条件の中でのレースに向き合っていた。

出発地は、フランスの港でそこから南アフリカを回り、オーストラリアと南極の間を抜け、南アメリカの最南端を抜け、再びフランスの港に戻ってくるというレースである。レース途中でヨットの生命線ともいえるマストが暴風の中でその風圧に耐えきれずに折れてしまい南アフリカのケープタウンに引き返すこともあり、表現できない悔しさを積み重ねている。彼が言葉にした、「何もしなければ、何も起こらない」、と言うメッセージがメモに記されていて、目が留まる。

何度も生命の危険と向き合いながら積極的に究極のヨットレースに立ち向かい続ける姿から発せられると、至高の言葉となる。何かに真剣に取り組み格闘している人から感じられる言葉の重みである。

リーダーシップを考える時にとても大切なことは、その人が持っている知識の絶対量ではなく、良質な目標に向かうエネルギーに裏付けられた実践の積み重ねである。自分自身と格闘することによってのみ得られる「力の源泉」である。第三者の引用ではなく、その人の実体験に基づく言葉によって、人は合理性の限界を超えた影響力を感じ、その人についていこうという衝動に駆られる。このことは冒険家であっても、研究者であっても、実務家であっても同じである。何かに真剣に向き合い続けることによってのみ行き着く場所がある。

「何もしなければ、何も起こらない」

キャリアにおいても周囲の空気に流され、漠然と漂流し続けるのではなく、自ら舵を握って、風をとらえ、自分の内面からくる言葉を羅針盤として、駆け抜けていくことが、自らを鍛錬し、人を勇気づけることができる。今日もそうしたことを少しでも実践する一日でありたいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷 表参道にて 竹内上人

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