目白からの便り

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず

今朝の都内は、薄い灰色の雲が満遍なく空を覆っている。都内の桜もいたるところで咲き始めて春の到来を感じさせる。今年は都内や松本などいくつかの場所で、花見を堪能しようと思いが巡る。。

週末を過ごす松本は標高が600メートル弱である。市の中心部にある松本城の天守閣の最上階が620メートルなので、松本を訪れ、お城に上るとちょうどスカイツリーの高さにいることになる。

市街地から100メートルくらい登ったところに城山公園という市民公園がある。松本城の桜が散るとこの公園の桜の見ごろになる、また更にその奥にあるアルプス公園は、標高が800メートルで、城山公園の桜が散りかけると、アルプス公園の桜が見頃になる。

さらに美ケ原高原への登山道の途中にある「広木場」(1580m)には、一本の桜がある。毎年登山シーズンの初めに体を慣らすために5月の連休にこの登山道を登るのだが、ちょうどそのころ桜が満開になっている。誰もいない山の中に凛として咲き誇る一本の桜の様子を毎年見て、一年の無事を確かめる。

桜の時期なると「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(唐代詩人 劉希夷)の詩の一句が蘇る。今から35年以上も前、京都の修学院離宮の近くにある関西セミナーハウスで、恩師である中條毅先生(現同志社大学最高齢の名誉教授)から新入生に語られた言葉であった。今でもその場の空気感とともに覚えているのが驚きでもある。凡庸としているとすぐに人の一生は老いたどり着いてしまう。目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。

中條先生は昨年、自叙伝である「ウシホから産業関係学への道」を執筆発行された。戦時中に海軍の軍人として乗艦されていた駆逐艦の潮(ウシオ/ウシホ)*からの労働力政策の研究領域である産業関係学の道に進み、その研究に生涯を貫き通した歩みを振り返っている。

変わらずに地道にやり続けることから開けてくることがある。どのような職業でも、長く続けることからにじみ出てくる気概は、知識を超える。職業におけるキャリアを極めるモデルでもある。あれもこれもと、移ろい易い気持ちを深く問いただし、一貫した仕事の積み重ねを繰り返していく姿勢そのものが大切な価値であると心に刻み込まれる。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

*駆逐艦ウシホ:1930年進水、太平洋戦争の開戦から終戦(1948年解体)までその任を完遂

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