目白からの便り

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず 2025年

今年は3月下旬から、急に寒さが戻ってしまい桜の開花も戸惑いがちである。今朝の都内は快晴で青空が広がるとともに気温も春らしい陽気にもどってきている。きっと、この週末は桜の見所には大勢の人で賑わうのであろう。私が通う大学でも昨日入学式が行われ、その式典に出席した。学長や院長から新入生に送られるメッセージや新入生からの入学に向けての期待を聞く機会は、演壇の片隅で聞いている身にとっても節目としての教訓として感謝したい。

この桜の時期なるとこのコラムでも幾度も取り上げてきている恩師である故中條毅先生(同志社大学名誉教授)エピソードで自らを振り返る。このコラムの読者にとっては、定番なのでご容赦頂きたい。

「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(唐代詩人 劉希夷 651-680)の詩の一句(白頭を悲しむ翁に代わりて)が蘇る。今から45年ほど前、京都の修学院離宮の近くにある関西セミナーハウス(修学院きらら山荘)で、中條毅先生から新入生に語られた言葉であった。今でもその場の空気感とともに覚えているのが驚きでもある。私は一階にある大会議室の後方の広くとられた窓側の席に座っていた。中條先生は100歳まで研究に専念された。人生100年、最後までキャリアを希求し続けた先生である。

凡庸としているとすぐに人の一生は老いたどり着いてしまう。目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。年齢を重ねてきた先生が、大学に入学したての学生を前にして語りかける言葉の心境を、自分自身が先生と同じくらいの年令になり、其の心境に重なり合うことに慣れてきた。

『古人復た洛城の東に無く、今人還また対す落花の風、年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず、
言を寄す全盛の紅顔の子、応に憐れむべし 半死の白頭翁』

中條先生は、自叙伝である「ウシホから産業関係学への道」の中で、戦時中に海軍の軍人として乗艦されていた駆逐艦の潮(ウシオ/ウシホ)*からの労働政策の研究領域である産業関係学(Industrial Relations)の道に進み、その研究に生涯を貫き通した歩みを振り返っている。日本のこの研究領域の創成期に全身の精神を注ぎ尽力した先生であると思う。

中條先生からは学生時代、学びの機会、実学の機会など多くの支援を受けた。特にアルバイトとして紹介いただいた「京都労働文化研究会(略 労文研)」の事務局の仕事は、大学での勉強と実社会の交点となった。この研究会は京都の阪急電鉄の西院駅の近くにあった京都労働者総合会館の中にあり、当時の労使協調路線をとっていた保守系右派の労働組合のナショナルセンターである全日本労働総同盟の京都支部(略称 京都同盟)の事務所に居候していた。実業における労使の代表者、大学研究者、民社党(現在は国民民主党にその流れを引き継ぐ)の政治家などから構成され、堅実な産業基盤に基づいた友愛主義に基づく民主産業社会の実現のための関西での研究の場でもあった。私のキャリアの原点は、20歳前後の多感な時期に、労使関係という学問を学んだことと、民主的な労働運動に向き合っている人たちの空気の中で実社会に触れたことがその源流になる。

鉄道関係の産別労組の書記長にかわいがってもらい、同じ階にある事務所に入ると、棚の奥には一升瓶がたくさん並べられていた。労働運動は気持ちが大切であり、自分をさらけ出してとことん仲間と飲み交わすことが大事な活動だとのような訓示を初老の書記長が二十歳前後の若造に熱く語ってくれた光景が記憶に残る。その書記長の年齢に自分自身が近づいていることも驚きでもある。

変わらずに地道にやり続けることから開けてくることがある。どのような職業でも、長く続けることからにじみ出てくる存在感と風格は、知識を超える。職業におけるキャリアを極めるモデルでもある。あれもこれもと、移ろい易い気持ちを深く問いただし、一貫して良質な仕事を試み、積み重ねを繰り返していく姿勢その中から醸成される僅かな成長の積層が大切な価値であると思う。今年も桜の時期に恩師の生涯に触れ、この詩に向き合う度に心に刻み込まれる。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2025年4月4日

*「ウシホ」、駆逐艦「潮」は、1931年11月17日に竣工。排水量1,980トン、出力5万馬力、37ノットの超高速艦。太平洋戦争の開戦から終戦(1948年解体)までその任を完遂。終戦時まで残存した特殊駆逐艦は「潮」と「響」のみ(中條先生の自叙伝『「ウシホ」から産業関係学への道』より)

付録 私のお花見の楽しみ方

私が週末を過ごす長野県松本市は、標高が600メートル弱である。松本城の天守閣の最上階が620メートルなので、お城に上るとちょうどスカイツリーの高さにいることになる。都内の開花からだいたい1週間後の4月上旬頃、松本城の桜が見頃になる。その松本城の桜が散ると市街地から100メートルくらい登ったところに城山公園という市民公園があり、この公園の桜の見ごろになる。その奥にあるアルプス公園は、標高が800メートルで、城山公園の桜が散りかけると、アルプス公園の桜が見頃になる。さらに美ケ原高原への登山道の途中にある「広木場」(1580m)には、一本の桜がある。毎年登山シーズンの初めに体を慣らすために5月の連休にこの登山道を登るのだが、そのころ桜が満開になっている。誰もいない山の中に凛として咲き誇る一本の桜の様子を毎年見て、一年の無事を確かめる。

都内の桜を満喫して、もう少し桜の余韻に親しみたいという欲望がわけば、ぜひ新宿駅から中央線で特急あずさ号に乗車していただければ、乗車2時間半ほどで、列車は、甲州甲斐路を抜け、茅野、諏訪、岡谷、安曇野に入り、松本駅に到着する。残念ながら新幹線は通っていないので、少し長い列車旅だが、山岳を抜け、甲府盆地を疾走し、八ヶ岳の美しい稜線を右手に眺める特急列車の旅も味わい深い。社内販売もあるのでご安心を。できれば新宿駅で、駅弁か私の好物の大船軒のサンドウイッチを買い求めていただくといい。そして、松本行きの切符はできれば列車右側の席を購入できれば満点の列車旅が保証される。都内の桜の後は信州の桜も楽しんでいただけたらと思う。

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