日本の大学で学ぶ海外からの留学生に心(感情)の知能指数と言われるEQ(Emotional Intelligence Quotient)の講義を行い始めて十年以上が経過する。今年9月に水戸市にある茨木大学で開催された留学生教育学会で、日本の企業社会にいかに多様な価値観を持った留学生をキャリア適用させる学習機能としてのEQプログラムの有効性について発表をする機会を得た。
大学や教育機関が、日本で学ぶ留学生に各々の専門的な高等教育を提供することは大切な役割であるのだが、留学生に対する教育を通じて卒業後のキャリアを日本の企業で発揮してもらうための適合性について考えることは、人事屋としての私の役割でもあるとも感じてきた。
日本における民間企業の人材評価の仕組みは諸外国と比べて特異性があり、専門能力の評価に留まらず統合的な人格評価を行う傾向が強い。これは日本の労使関係が分権的であり、個人の評価が個別的であることに起因する(石田,2014)。日本の人事制度、特に昇格や賃金改定に伴う人材評価の歴史的な背景や実態を正しく考察し、どのような行動様式をとる人材が日本企業や組織の中で高い評価をされるのかについて明確化することは、異文化適応と格闘する留学生にとっては極めて重要な組織適合の為の情報源となるであろう。
戦後日本の人事制度において、従業員の評価指標は、個人が持つ能力や成果以上に人格的な評価が長期間にわたって継続的に行われてきている。職務給への移行の選択をためらい、職能的処遇体系が基軸の評価指標の多くは、「集団としての成果の貢献度」、「職能を横断する複合的な能力」、「組織貢献的な態度や姿勢」という視点で構成されることが基礎となっている。こうした単純化できない能力構造を「知的熟練」(小池,1991)というのであろう。評価の現場では、最終的な昇格や中核人材としての重要管理職登用においては、これらの中でも「態度・姿勢」といった人材評価に大きく依存するのが特徴でもある。こうした人材評価は長期的な評価の累積によって定まってくる。継続的な教育訓練、ローテーションなどの育成・配置プロセスにより、組織基盤を強固なものとする人材育成に注力しつつも、組織の中核人材には、これに加えて「立派な人物」としての役割を期待する。日本企業の昇進プロセスが諸外国と比較して長期にわたる要因でもある。
EQでは、自らの感情を正しく理解するだけでなく、他者の感情も理解をした上で最適な関係構築方法を戦略的に描き、行動することを促す。その感情機能の深い認知と向上の反復学習・訓練により自己と社会との接合部分の情報伝達の品質を最大化する。こうした感情的共感能力ともいうべき能力は、結果的に仕事上におけるパフォーマンスに肯定的影響を与え、加えてそのプロセスにおける相互信頼関係の醸成により、良質なキャリアの機会を得る環境を構築することになる。卓越した感情認識・管理・活用能力が結果的に個々人のキャリア形成に大きく影響を与え、組織内評価の可能性を高め、昇進や昇格の機会につながるとするならば、その起点となる感情能力の学習は不可欠になる。EQを活用した学習プログラムにより、留学生の日本企業における適合性を高めるとともに、日本企業がなかなか活用できていない多国籍人材の組織活用につなげていく提案をこれからも続けていきたいと思う。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2025年9月19日
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