目白からの便り

成績評価と人事考課

先日、友人の先生と軽いランチをした後、大学の構内を自分の研究室に向かい歩いていると、一学期で自分のキャリアデザインの講義を履修していた男子学生とすれ違いざま、さわやかな笑顔で挨拶される。2学期の科目も履修登録したので、引き続きお願いしますとのこと。彼は、たしか3年生だったと記憶をたどる。まさに人生の最初の重要な選択の一つである将来のキャリアの分岐点にこれから向き合おうとしている。少しでも彼のキャリアの羅針盤の精度をアップデートする援助者になれればと思いを巡らす。

今週は、大学の1学期の講義の成績評価をつけるのにあれこれ悩みながらの一週間であった。授業の中にグループワークも取り入れているので、そうした活動評価も成績に反映したいところであるが、少し人数が多いクラスだと、公平にすべての学生の授業参画度を評価しきれないので、悩ましいところである。本来であれば企業に出たときには、どのように集団の活動の中で積極的にかかわったのか、まとめ上げる時に傍観者にならずに協力的なスタンスを維持し続けることができたかが重要であり、その要素を少しでも成績に組み込みたいところでもある。

学校の試験の結果だけでなくこうした協業活動の関わり方を評価するのは、民間企業の人事評価でいうところの「プロセスの評価」である。先日、伝統ある日本の製造業で人事部長を担っている友人と会った。話を聞くと、人事考課をまだやっているという。専門的な話になるのだが、「人事考課」とは、能力、業績、勤務態度・意欲を客観的に数値化したものである。その数値データは、昇給や賞与査定、昇進・昇格に反映させる。人を評価する仕組みが二階建てになっている。人事の流行は「人事考課」は廃止し直接、MBOといわれる目標管理に基づき結果成果に着眼した評価や、「役割評価」という職責をかなり細かく定義・市場価格と整合をとり「職務」をベースに評価するなど簡素化しているのが一般的になりつつあるのだが、「態度」や「意欲」などの「全人格的評価」に目を向け、かたくなに続けている会社があるのかと感銘をうけた。

企業のブランドは最終的には「私」を超え、「組織という公(おおやけ)」のために上司が見ていないところでも職業倫理に基づき勤勉に働く、良質な人の集団が存在するか否かである。モノづくりの現場における製品品質に対する真摯な姿勢。また、小売りの現場においては、お客様の要望を誠実に受けとめ、お客様との長期的な関係構築につながる最適な商品の紹介。そして、お客様のもとに商品やサービスを配送するデリバリーの現場でも、良質なお客様は、たとへ直接的な会話がなくとも、かならず配送担当者の心根の透明性を見抜くものである。オフィスに出入りする時に誰からも反応がないにもかかわらず、深々と一礼をする。脱いだ靴をきちんとそろえて、入口の端に並べ、持参したスリッパでお客様のオフィスに入る。そうした立ち居振る舞いは、優れたアスリートの方が、試合後深々と競技場に向かって頭を下げる行為に近い。

組織が「働く人」を評価する意味をよく考えてみたい。公平に評価し、適正に賃金を配分するということが基本ではあるが、別の側面は、組織が、働く仲間に深い関心をもち、彼らを勇気づけ、仕事に対する高い倫理観とモチベーションを促し、どんな環境の中でも前を向いてもらうように支援するというメッセージを伝える貴重な場でもある。

夏休みが明けた2学期からも、先の男子学生が企業に入り、本当に働くことの醍醐味と働くことから得られる深い高揚感を味わってもらえるように、人事のエッセンスを伝えていきたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2024年7月19日  竹内上人

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