目白からの便り

宮崎 宮大工の作業場を訪問して

今週、宮崎県を訪れている。宮崎県内の中核都市にご縁があり、神社や仏閣の建築を担う会社を訪問する。作業場を訪れると、職人が丁寧に手入れをしたかんなで削り上げつややかな表面をもつ檜の柱が幾層にも積み上げられ、作業所全体を漂うほのかな木の香りが体を包む。機械加工の工場のあまいオイルとは異なる仕事場のにおいである。

仕事場の外に露天でこれからしばらくして加工される木材が自然乾燥の為に整然と積み上げられていた。私が雨天のことが気になり、案内してくれたいかにも九州男児でお酒が似合いそうな年配の作業責任者の方に伺うと、天然乾燥は木にはいい。時々雨にぬらした方が木の中の水分を吸い取って乾燥するのだと言う。乾燥機に入れて即効的に人工乾燥させるやり方もあるが、あれはダメだね、木の表面が妙に焼けてしまって、露天でゆっくり乾燥させるのが最も良いのだと説明に力がこもる。

作業場に戻ると、図面場があるというので、中二階の階段を上る。そこには床一面に木材の加工図面が描かれていた。建築後、長い年月を経たお寺や神社の建物の構造図から一つ一つの柱や梁の加工図を原寸大に床に墨で写し直すのだという。一つの作業が終わると、床一面の原寸図は塗料で上塗りされ新しくされる。これが何年も繰り返される。当然のことながら、床に描かれた原寸図は電子データでは残らない。職人の脳裏に刻まれて伝承される。

私は人事屋の癖から、人材確保はどうされているのですかと彼に質問した。訪れた日に作業をしていたのは年配の方が多かったので、こうした伝統技能をどのように後継していくのかということが気になったのだ。最近看護学校を卒業した若い女性が入社してきたとほほえみながら言う。仕事に前向きで今も九州の寺院の建築現場に行っていると嬉しそうに話す。看護師を目指したが、モノづくり、しかも伝統技能の要素を多分にもちあわせるこの仕事に興味をもち、門をたたいてきたのだと。女性はその一人だけだという。二十歳そこそこの女性が寺社の建築現場で屈強な年配の男性に交じりながら格闘している姿を想像する。

寺社の建築のことを考える時に必ず思い出すエピソードがある。法隆寺の宮大工の棟梁である西岡常一氏(1908-1995)のことである。彼は、千年ももつ寺院の建物を修繕する大勢の宮大工を束ねる棟梁でもある。次の世代の宮大工にとって模範とされる責務を担う。多くの職工の尊敬と心を束ねていく力量が求められる。伝統的な技量を伝えていく重い役割を担う。職工たちの心の支えでもあり、理想として目指す姿でもある。若い職工は西岡棟梁を見習い日々の技量を鍛え、磨き上げてきたのであろう。

キャリアはいくつもの選択肢と可能性がある。特に若い頃は自分にあったキャリアを探し出すのは戸惑いも多い。偶然かもしれないが、機会があり、その仕事に関心を持ち、慣例にとらわれずに飛び込んでいき、焦らずじっくり時間を積み重ねていくことにより見えてくるキャリアもあるのであろう。いつしか、その女性が優れた宮大工の棟梁になる姿を想像する。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2024年5月31日  竹内上人

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