また、番組には介護業界から線路保全の仕事へ転職した男性も登場していた。正直に言えば、介護職と線路保全の間に本人が明確な職業上の共通性を見出していたかどうかは分からない。むしろ転職当時は全く意識していなかった可能性もある。しかしキャリア研究の世界では、このような事例を非常に興味深く捉える。ナラティブ・キャリアの代表的研究者であるマーク・L・サビカスは、2005年の論文『Career Construction Theory and Practice』*1において、人は単に職業を選択する存在ではなく、自らの人生に意味を与える物語を構成しながらキャリアを形成すると論じた。
また、ラリー・コクランは『Career Counseling: A Narrative Approach』*2の中で、人は経験を物語として編集しながら人生を理解すると述べている。キャリアとは職務経歴の一覧ではなく、人生そのもののストーリーなのである。この視点から考えると、介護から線路保全への転職は実に興味深い。介護は利用者の安全と安心を守る仕事である。一方、線路保全は何十万人もの乗客の安全を支える仕事である。仕事の内容は違う。しかし、「誰かの安全を守る」という価値観には共通性がある。本人が意識していたかどうかは分からない。それでも、無意識のレベルでその価値観に誘発されていたのであれば、この転職には十分な物語性が存在する。私は実際の転職者やキャリアで岐路に立たされている方々と対話するとき、ご本人が迷っていたら必ず過去からの歩みを整理しなおし、そこから物語性と希少性を発見する支援を心がける。
サビカスは、人が人生のなかで繰り返し追い求める中心的価値観を「ライフテーマ」*3と呼んだ。人はしばしば後になってから、自らのキャリアの一貫性に気付く。若い頃には偶然だと思っていた選択が、振り返ってみると同じ価値観に導かれていたと理解できるのである。私は新幹線の現場で働く人々に、そのような物語を見た。
前述した女性技能者の挑戦も、異業種から転職した保線作業員の努力も、改札で理想と現実の狭間に立ちながら仕事をする接客のプロフェッショナルも、それぞれが自らの人生の物語を背負って働いている。そして、その無数の物語が交差することで、職場の品質は支えられているのである。
安全、正確、快適。私たちはそれを当たり前のように享受している。しかし、その背景には設備や技術だけでは説明できない人的資本の厚みがある。なかなかどうして、すごいぞと感服する。「日本品質」の本質とは、こうした人々の誠実さと専門性、そして仕事への矜持の総和なのかもしれない。そしてそのような心持で今日、自分に与えられた持ち場を全うしたいと願う。
今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。
2026年9月4日
*1) Savickas, M. L. (2005), Career Construction Theory and Practice。キャリア構成理論を体系化した代表的論文。キャリアを人生テーマに基づく意味形成プロセスとして捉える。
*2) Cochran, L. (1997), Career Counseling: A Narrative Approach。ナラティブ・キャリア研究の代表的著作。個人が人生経験を物語化しながらキャリアを形成することを論じた。
*3)ライフテーマ(Life Theme)**とは、個人が人生を通じて繰り返し表現する価値観や意味体系を指す。サビカスはキャリアの一貫性を理解する中核概念として位置付けた。
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(e-learningの情報 人事やキャリアに関する講座)
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