目白からの便り

ビジネスアスリート(Business Athletes) ― 結果や環境を前向きにとらえる

新しい年は丑年で、十二支の二番目の年となる。十二支の思想では、子年に蒔いた種子が芽を出して成長する時期とされ、丑年には慌てず、自らに課したことを着実に前に進め、将来の実りにつなげていくという意味がある。干支を表す動物としての牛に想いを寄せるといつも脳裏に蘇る次の言葉がある。『…焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい、世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。決して相手をとらえて、それを押そうと思ってはいけません。相手は後から後から我々の前に現れ、そうして我々を悩ませます。…」 記憶があいまいなところもあるが、夏目漱石が静養中の伊豆から芥川龍之介に送った書簡に記された言葉である。苦闘した受験生時代に現代国語の問題集の裏表紙に掲載されていた。昔も今も正しい人間理解は変わらないのだと思う。

数年前から、年初の週報に取り上げている「ビジネスアスリート(Business Athletes)」 という言葉がある。仕事を通じ「働く人」の視点と、組織や人々を導いていく「経営者・管理者」の視点の相互理解の一致点としての概念として最も適切な言葉を探し続け、この言葉にたどり着いた。言葉の意味するところを直接的に訳すのであれば、「職業競技者」となる。

今年も年始のイベントである東京箱根間往復大学駅伝競走の中継を見ながらその思いはいっそう深まる。長距離走を目指す関東地域の大学生にとって箱根駅伝は大きな舞台である。この日に向けて練習を積み上げる。そこには強固なトレーニングだけではなく精神的な練達や身体的な鍛錬が求められる。また駅伝というチーム競技から来るチームメイト間の「切磋琢磨による健全な競い合い」や「友愛に満ちた相互の励まし」によりチームとしての純度が高まる。選手以外の大切な役割もある。試合に向けて普段から仲間を気遣い、自らを律し、自己鍛錬し、次の学年への継承(技術や知見)に心を配る。その姿に、企業人・組織人としての職業意識が重なる。私は、大学時代も労使関係という学問を通じ賃金を勉強していた。ある時、指導教官が人事の世界の中にもスポーツの世界と同様に、「爽やかなスポーツ精神」があってしかるべきだと熱心に話されたことを今でも鮮明に覚えている。

「職業」という競技において自身の目標を設定し、それに向けて日々練達し続け、仲間と切磋琢磨する。優れた職業倫理観を厳しい局面におかれた時でも堅持する。キャリアの仕組みの中でもスポーツと同様な「結果」を受け取ることになるが、どのような評価結果でも肯定的に捉え、次の試合へ向けて再び前に向かって進んでいく爽やかな精神さえあれば職業人生も楽しく可能性を感じる世界に変容する。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2021年1月8日  竹内上人

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